#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を書こう21日目。
Day.21 一番星は占い師
最近、街で流行っている噂がある。
『一番星を街で一番に見ると明日を占ってもらえる』
何を占ってもらえるんだろう。どんなことを占ってもらうんだろう。
占ってほしいことなんて特にないくせに、一番星の占いなんて不思議なものが気になって、一番を狙ってみることにした。……のはいいのだけれど、街で一番最初に一番星を見つけるなんて、なかなかの至難の業。ましてや噂のせいで、誰も彼も空を見上げてる。
空に星が見えても、一番はすでに誰かのもの。占う声は聞こえやしない。
部屋の窓を閉めながら、私はため息をついた。
「今日も一番じゃなかったみたい」
「きみがそんなものに興味があるとも輪なかったな。そんなに占ってほしいのかい?」
「そういうわけでもないけど……」
気になるんだもの、と唇を尖らせた翌日、日の暮れる頃のこと。私が窓を開ける前に、レオがぱちりと指を鳴らした。
「街の時を止めたから、今ならきみが一番乗りだ」
レオが時間を止めることまでできるとは思わなかった。私はレオにお礼を言って、空に輝く一番星を探した。
「あ、見つけた」
声に出した途端、見つけた一番星がぐんぐん近づいてくる。空から落ちる流れ星のように、輝く尾を引いてこちらに向かってやってくる。
そうして鼻先まで近づいた一番星には、年老いた顔が浮かんでいた。思わず息を呑む私に、人間の顔を持つ一番星は私の明日を占った。
「明日、鏡の中の自分に気をつけよ」
一番星はそう言うと、きらめく尾を引き空へと戻っていった。レオが再び指を鳴らす。時間が動き出したのか、私にはわからない。けれど忘れていた呼吸は思い出せた。
「それで、何を言われたんだい?」
レオには一番星の声が聞こえなかったらしい。私は「大したことないの」と首を振り、明日は鏡に近づかないでおこうと決めた。
伏せる
Day.21 一番星は占い師
最近、街で流行っている噂がある。
『一番星を街で一番に見ると明日を占ってもらえる』
何を占ってもらえるんだろう。どんなことを占ってもらうんだろう。
占ってほしいことなんて特にないくせに、一番星の占いなんて不思議なものが気になって、一番を狙ってみることにした。……のはいいのだけれど、街で一番最初に一番星を見つけるなんて、なかなかの至難の業。ましてや噂のせいで、誰も彼も空を見上げてる。
空に星が見えても、一番はすでに誰かのもの。占う声は聞こえやしない。
部屋の窓を閉めながら、私はため息をついた。
「今日も一番じゃなかったみたい」
「きみがそんなものに興味があるとも輪なかったな。そんなに占ってほしいのかい?」
「そういうわけでもないけど……」
気になるんだもの、と唇を尖らせた翌日、日の暮れる頃のこと。私が窓を開ける前に、レオがぱちりと指を鳴らした。
「街の時を止めたから、今ならきみが一番乗りだ」
レオが時間を止めることまでできるとは思わなかった。私はレオにお礼を言って、空に輝く一番星を探した。
「あ、見つけた」
声に出した途端、見つけた一番星がぐんぐん近づいてくる。空から落ちる流れ星のように、輝く尾を引いてこちらに向かってやってくる。
そうして鼻先まで近づいた一番星には、年老いた顔が浮かんでいた。思わず息を呑む私に、人間の顔を持つ一番星は私の明日を占った。
「明日、鏡の中の自分に気をつけよ」
一番星はそう言うと、きらめく尾を引き空へと戻っていった。レオが再び指を鳴らす。時間が動き出したのか、私にはわからない。けれど忘れていた呼吸は思い出せた。
「それで、何を言われたんだい?」
レオには一番星の声が聞こえなかったらしい。私は「大したことないの」と首を振り、明日は鏡に近づかないでおこうと決めた。
伏せる
てがろぐ予約投稿できるんだ……! できたんだ……!? ちゃんと読まなきゃねマニュアルはね。
でも急にこうやってもにゃもにゃ書くかもしれないから地道にじみじみ投稿するか……。
でも急にこうやってもにゃもにゃ書くかもしれないから地道にじみじみ投稿するか……。
#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を書くぞ企画とうとう20日目!
Day.20 赤い花
街のお祭りで、花売りさんがいた。まだ五つ程度の可愛らしい花売りさんだ。
「おはな、いかがですかっ」
「ありがとう。一つくれる?」
「はい!」
硬貨と引き換えに受け取った白い花を、家に持ち帰り、鏡の前で髪に挿す。
途端、レオが蜃気楼のように現れた。その顔はむすりと不服そうなで、たてがみは生きているようにうねっている。
「レオ、たてがみがうねうねしてる」
「不満だからね」
「何が?」
「きみが、私以外からそうして花を受け取ったことだよ」
そう言って、レオは私の髪から花を抜き、ぽいと捨ててしまった。花は床に落ちる前に、まるで灰のように消えてしまった。
白い花の代わりに、レオの手には赤い花。出会った日にも同じ花を出していた。
レオはそれを丁寧に私の髪に挿した。
「きみには白よりも、赤が似合うと思う。よく映えているよ」
金色の目に燃えるような感情が浮かんでいるのがわかり、私は咄嗟に目を伏せた。
「あ……ありがとう、レオ」
お礼を言うのすら恥ずかしくなり、私はレオの顔を見上げられなかった。頬はかっかと熱を持ち始め、耳まで熱く鳴り出した。
そんな私を見て、レオは喉をゴロゴロ鳴らし笑っていた。伏せる
Day.20 赤い花
街のお祭りで、花売りさんがいた。まだ五つ程度の可愛らしい花売りさんだ。
「おはな、いかがですかっ」
「ありがとう。一つくれる?」
「はい!」
硬貨と引き換えに受け取った白い花を、家に持ち帰り、鏡の前で髪に挿す。
途端、レオが蜃気楼のように現れた。その顔はむすりと不服そうなで、たてがみは生きているようにうねっている。
「レオ、たてがみがうねうねしてる」
「不満だからね」
「何が?」
「きみが、私以外からそうして花を受け取ったことだよ」
そう言って、レオは私の髪から花を抜き、ぽいと捨ててしまった。花は床に落ちる前に、まるで灰のように消えてしまった。
白い花の代わりに、レオの手には赤い花。出会った日にも同じ花を出していた。
レオはそれを丁寧に私の髪に挿した。
「きみには白よりも、赤が似合うと思う。よく映えているよ」
金色の目に燃えるような感情が浮かんでいるのがわかり、私は咄嗟に目を伏せた。
「あ……ありがとう、レオ」
お礼を言うのすら恥ずかしくなり、私はレオの顔を見上げられなかった。頬はかっかと熱を持ち始め、耳まで熱く鳴り出した。
そんな私を見て、レオは喉をゴロゴロ鳴らし笑っていた。伏せる
#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を書く? できらぁっ! の企画19日目ぇ!
Day.19 空想地図
ある日のこと。宿題で調べ物をする必要があり、祖父の本棚で探し物をしていた。たくさん並ぶ本の中、私は分厚い図鑑の間に挟まれていた古びた紙を見つけた。大きさからして手紙ではないし、紙質からして大事な書類でもない。
何だろうと思って開くと、私の字と祖父の字が混じる地図だった。
背後から、レオが「懐かしいな」と覗き込む。
「きみの理想の街を、ヴィルヘルムが一緒に書いたものだよ」
書いた記憶は一切ないけれど、クレヨンの筆跡は間違いなく私のもの。一体どんな街を作りたかったんだろうと、改めて地図に目を落とす。
街の中を通る川には、三日月の橋。街の東側にある森のそばにはお星様の浮かぶ池。中央通りには、ほっぺが落ちるおいしいパン屋さん。商店街には、不思議なものを売る骨董品店。住宅地には滑り台のある大きな公園にゾウの形をした噴水。
あれ、これって今の街にも覚えのある場所があるような……。
「私、もしかして予言の才能があったのかな……!?」
「さあ。予言か、それともこの地図が魔法の紙だったのか、どっちだろうね」
愉快そうにレオは笑う。その顔を見て、私はこれが予言でも魔法の紙でも、どちらでも構わないと思えた。だってどちらにしたって、私の日常が平穏なことに変わりはないのだから。伏せる
Day.19 空想地図
ある日のこと。宿題で調べ物をする必要があり、祖父の本棚で探し物をしていた。たくさん並ぶ本の中、私は分厚い図鑑の間に挟まれていた古びた紙を見つけた。大きさからして手紙ではないし、紙質からして大事な書類でもない。
何だろうと思って開くと、私の字と祖父の字が混じる地図だった。
背後から、レオが「懐かしいな」と覗き込む。
「きみの理想の街を、ヴィルヘルムが一緒に書いたものだよ」
書いた記憶は一切ないけれど、クレヨンの筆跡は間違いなく私のもの。一体どんな街を作りたかったんだろうと、改めて地図に目を落とす。
街の中を通る川には、三日月の橋。街の東側にある森のそばにはお星様の浮かぶ池。中央通りには、ほっぺが落ちるおいしいパン屋さん。商店街には、不思議なものを売る骨董品店。住宅地には滑り台のある大きな公園にゾウの形をした噴水。
あれ、これって今の街にも覚えのある場所があるような……。
「私、もしかして予言の才能があったのかな……!?」
「さあ。予言か、それともこの地図が魔法の紙だったのか、どっちだろうね」
愉快そうにレオは笑う。その顔を見て、私はこれが予言でも魔法の紙でも、どちらでも構わないと思えた。だってどちらにしたって、私の日常が平穏なことに変わりはないのだから。伏せる
#人外と人間 で100日かけて100本の掌編書き切るぞの企画18日目!
Day.18 絵の中の門
私の部屋には、薔薇が見事な庭を描いた風景画が飾られている。小さい頃から気に入っていたその絵には鉄製の門が描かれていて、それはいつも閉じていた。
ある日のこと。窓も開けていないのに風を感じた。どこから吹く風だろうと部屋を見渡して、絵の中から風が吹いていることに気づいた。風は冷たく、鉄錆と薔薇の匂いがした。
風が吹くのは絵の中、それも、門の向こうからだった。そして門は、大きく開かれていた。
門の向こうには広大な〈空のない庭〉が広がっており、その向こうにある大地には何かが横たわっている。
絵の中の何かが、ほんの少しだけ動く。門から吹き出していた風が、今度は門の向こうへと吸い込まれる。私の存在に気づいたかのように、振り向こうとするかのようにそれは身動いで――。
「見ないほうがいい」
そう言って、レオが私の目を塞ぐ。私はレオの手に自分の手を重ねながら問いかける。
「あれは、寝てるの?」
「ああ。まどろんでいるんだ」
「目を覚ましたら、どうなるのかな……」
「だから絵に閉じ込めたのさ」
門の閉まる音がして、風が止む。レオの手がゆっくりと離れた。
物が見えるようになった目で絵を見る。風景画はいつも通り、薔薇を見事に咲き誇らせ、鉄の門はしっかりと閉じていた。さっきまで見ていたものが、まるで夢のよう。
けれど部屋に残った鉄錆と薔薇の匂いが、夢ではないと語っていた。伏せる
Day.18 絵の中の門
私の部屋には、薔薇が見事な庭を描いた風景画が飾られている。小さい頃から気に入っていたその絵には鉄製の門が描かれていて、それはいつも閉じていた。
ある日のこと。窓も開けていないのに風を感じた。どこから吹く風だろうと部屋を見渡して、絵の中から風が吹いていることに気づいた。風は冷たく、鉄錆と薔薇の匂いがした。
風が吹くのは絵の中、それも、門の向こうからだった。そして門は、大きく開かれていた。
門の向こうには広大な〈空のない庭〉が広がっており、その向こうにある大地には何かが横たわっている。
絵の中の何かが、ほんの少しだけ動く。門から吹き出していた風が、今度は門の向こうへと吸い込まれる。私の存在に気づいたかのように、振り向こうとするかのようにそれは身動いで――。
「見ないほうがいい」
そう言って、レオが私の目を塞ぐ。私はレオの手に自分の手を重ねながら問いかける。
「あれは、寝てるの?」
「ああ。まどろんでいるんだ」
「目を覚ましたら、どうなるのかな……」
「だから絵に閉じ込めたのさ」
門の閉まる音がして、風が止む。レオの手がゆっくりと離れた。
物が見えるようになった目で絵を見る。風景画はいつも通り、薔薇を見事に咲き誇らせ、鉄の門はしっかりと閉じていた。さっきまで見ていたものが、まるで夢のよう。
けれど部屋に残った鉄錆と薔薇の匂いが、夢ではないと語っていた。伏せる
映画『とらわれて夏』め~ちゃくちゃよかったー!
脱獄囚に匿うよう強要されて始まるストーリーだけどぐだぐだせずさっさと強要するシーンに入るし疑似家族を楽しめるしラストの勢いもよかった。情の深いお母さんが新たないい人に出会えてよかったという気持ちと、思春期の不安を抱える主人公が決してそれを責められなかったのがよかった。よかった……!
最後には泣いちゃったなぁ。夏に見たらまた違う印象抱くのかな。いい映画だった。
脱獄囚に匿うよう強要されて始まるストーリーだけどぐだぐだせずさっさと強要するシーンに入るし疑似家族を楽しめるしラストの勢いもよかった。情の深いお母さんが新たないい人に出会えてよかったという気持ちと、思春期の不安を抱える主人公が決してそれを責められなかったのがよかった。よかった……!
最後には泣いちゃったなぁ。夏に見たらまた違う印象抱くのかな。いい映画だった。
ミーナのキャラが定まりきってなくて「おじいちゃん」「おじいさま」と表記揺れがあったのを修正しました!
ジムに通うかすごく悩んでてぇ……(整形外科行って血液検査受けたらリウマチじゃなかったけどおデブが過ぎる結果が出てめちゃくちゃ叱られた絵文字)
通勤にかかる時間が長いから平日あんま行きたくなくて、それだと土日しか行かないから何かもったいないよなぁって思ってるけどどうしようか……どうしようか! 月額8800円プラス事務手数料入会料諸々がなぁ! でも健康をそれで買うと思えば安いのでは!? 安いのか!? 自力で痩せらんねえなら金払うしかないのよ! ないかぁ。
通勤にかかる時間が長いから平日あんま行きたくなくて、それだと土日しか行かないから何かもったいないよなぁって思ってるけどどうしようか……どうしようか! 月額8800円プラス事務手数料入会料諸々がなぁ! でも健康をそれで買うと思えば安いのでは!? 安いのか!? 自力で痩せらんねえなら金払うしかないのよ! ないかぁ。
#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を書こう企画その17!
Day.17 あのときの言葉
棘のように心に刺さり続けている言葉がある。
「あなたってほんと冷たいのね、ミーナ!」
従姉妹のエルケが、祖父の葬儀に放った言葉だ。あんなにも可愛がってくれた祖父の死で泣かなかった私は、確かに冷たい。
「ねえレオ」
自室で勉強中、どうしてもエルケの言葉が離れず、レオを呼ぶ。レオは音も立てず現れ「何だい?」と尋ねる。私はゆっくり言葉を探した。
「あなたが私を守るのは……というか……私が人じゃないものに好かれて、いろいろと変な目に遭うのは、私が冷たいから?」
「冷たい? きみが? 何を言ってるんだ、ミーナ」
「だって、あんなに大好きだったおじいさまが死んでも、涙一つこぼさなかったんだもの」
「ああ、それか……。それは、それはね、ミーナ」
レオは動揺したようで、いつもより尻尾の振り幅が大きい。私がレオを見上げていると、レオは「おいで」と私をベッドへ移動させた。二人でベッドに腰をかけても、ベッドは私の体重しか感知しない。
「ミーナ、一つ言っておこう。きみは冷たくはない。むしろ優しすぎる」
「優しくない。誰かとの約束も忘れて放り出しちゃうような子だもの」
「いいや、優しい。きみがあの時泣かなかったのは、大好きな祖父を失った喪失感と、その非日常感がきみの感情を抑えつけたせいだ」
レオは私の肩を抱き、髪を梳き、私に「きみは優しい」と言い続ける。その言葉のお陰で胸に刺さった棘が溶け落ちたような気がして、それと同時に今まで押しとどめられていた涙があふれ出した。レオが「いい子だ」「優しい子だ」と何度も言い続ける。
私は静かにそれを受け入れ、レオの三つ揃いを涙で濡らしていた。伏せる
Day.17 あのときの言葉
棘のように心に刺さり続けている言葉がある。
「あなたってほんと冷たいのね、ミーナ!」
従姉妹のエルケが、祖父の葬儀に放った言葉だ。あんなにも可愛がってくれた祖父の死で泣かなかった私は、確かに冷たい。
「ねえレオ」
自室で勉強中、どうしてもエルケの言葉が離れず、レオを呼ぶ。レオは音も立てず現れ「何だい?」と尋ねる。私はゆっくり言葉を探した。
「あなたが私を守るのは……というか……私が人じゃないものに好かれて、いろいろと変な目に遭うのは、私が冷たいから?」
「冷たい? きみが? 何を言ってるんだ、ミーナ」
「だって、あんなに大好きだったおじいさまが死んでも、涙一つこぼさなかったんだもの」
「ああ、それか……。それは、それはね、ミーナ」
レオは動揺したようで、いつもより尻尾の振り幅が大きい。私がレオを見上げていると、レオは「おいで」と私をベッドへ移動させた。二人でベッドに腰をかけても、ベッドは私の体重しか感知しない。
「ミーナ、一つ言っておこう。きみは冷たくはない。むしろ優しすぎる」
「優しくない。誰かとの約束も忘れて放り出しちゃうような子だもの」
「いいや、優しい。きみがあの時泣かなかったのは、大好きな祖父を失った喪失感と、その非日常感がきみの感情を抑えつけたせいだ」
レオは私の肩を抱き、髪を梳き、私に「きみは優しい」と言い続ける。その言葉のお陰で胸に刺さった棘が溶け落ちたような気がして、それと同時に今まで押しとどめられていた涙があふれ出した。レオが「いい子だ」「優しい子だ」と何度も言い続ける。
私は静かにそれを受け入れ、レオの三つ揃いを涙で濡らしていた。伏せる
今日甥っ子に付き合ってレゴランド行ったんですけど、平日なこともあってあまり並ばずにアトラクション行けたので小さい間はレゴランドめっちゃいいなぁと思いました。そして暑かった。暑かった。暑かった……!
#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を書いてくぞ企画その16!
Day.16 回らないオルゴール
たまたま通りかかった古道具屋で、オルゴールが目に入った。叩き売りとしか思えない値札がつけられたそれを手に取り店主に声をかけると、「音が出ないんだ」と返ってきた。
「ねじが回らなくてね。音が鳴らないんだよ。それでも買うのかい?」
私が買わなければ、捨てられてしまったりするのだろうか。そう思うと気の毒で、気づけば私は「買います」と答えて硬貨を店主に渡していた。
「また余計なものを……」と背後でレオが呟いた気がしたけれど、振り向いたりはしなかった。
夜、自室でオルゴールのねじを回してみようとした。けれど店主の言う通り、ねじは回らなかった。蓋を開けようと試しても、こちらも開かない。
部屋の空気が揺らぎ、レオが姿を現す。呆れ顔のレオに「気になるんだもの」と口を尖らせ言い訳する。レオはため息をついた。オルゴールへちらりと目を向けたレオは、「それは誰かの心臓だったものだ」と言う。
レオが嘘をついたことは(今のところだけれど)ない。レオがそう言うのなら、そうなんだろう。どうして心臓がオルゴールになったのかはわからないけれど。
「ねえ、レオ。このオルゴールが音を鳴らせるようにできない?」
「もちろんできるが……気分が悪くなるかも知れないよ」
「え」
私が了承する前に、レオはぱちんと指を鳴らした。オルゴールはぱかんと小気味いい音を立てて分解された。
オルゴールの部品はどれもうっすら赤い。血のような色だけれど、それにしては鮮やかだ。
部品を眺めていて、ある部品に紙が巻きついているのに気づいた。破かないよう注意深くそれを外すと、それは手紙だった。文字はかすれて読めないけれど、手紙だとわかった。
「レオ……この手紙、見ていいものじゃないわよね」
「きみ宛の手紙であれば見てもいいだろうけどね」
「もう、意地悪」
「満足したならオルゴールを戻すよ。手紙はわたしが預かっておこう」
レオはもう一度ぱちんと指を鳴らした。部品たちは生きてるように飛び跳ね自分のあるべき場所に収まり、オルゴールは元の形に戻った。
ねじを回してみる。きりきりと音を立てた後、オルゴールは可愛らしい音楽を奏で始めた。
「私……何となくだけど、このオルゴールはあの手紙の中身を表してる気がするわ」
「きみがそう思うなら、そうなんだろうね」
オルゴールをそっと胸に抱き、私はベッドに横たわった。
「私の心臓もオルゴールになったら素敵ね」
レオは返事をせず、窓の外を眺めていた。伏せる
Day.16 回らないオルゴール
たまたま通りかかった古道具屋で、オルゴールが目に入った。叩き売りとしか思えない値札がつけられたそれを手に取り店主に声をかけると、「音が出ないんだ」と返ってきた。
「ねじが回らなくてね。音が鳴らないんだよ。それでも買うのかい?」
私が買わなければ、捨てられてしまったりするのだろうか。そう思うと気の毒で、気づけば私は「買います」と答えて硬貨を店主に渡していた。
「また余計なものを……」と背後でレオが呟いた気がしたけれど、振り向いたりはしなかった。
夜、自室でオルゴールのねじを回してみようとした。けれど店主の言う通り、ねじは回らなかった。蓋を開けようと試しても、こちらも開かない。
部屋の空気が揺らぎ、レオが姿を現す。呆れ顔のレオに「気になるんだもの」と口を尖らせ言い訳する。レオはため息をついた。オルゴールへちらりと目を向けたレオは、「それは誰かの心臓だったものだ」と言う。
レオが嘘をついたことは(今のところだけれど)ない。レオがそう言うのなら、そうなんだろう。どうして心臓がオルゴールになったのかはわからないけれど。
「ねえ、レオ。このオルゴールが音を鳴らせるようにできない?」
「もちろんできるが……気分が悪くなるかも知れないよ」
「え」
私が了承する前に、レオはぱちんと指を鳴らした。オルゴールはぱかんと小気味いい音を立てて分解された。
オルゴールの部品はどれもうっすら赤い。血のような色だけれど、それにしては鮮やかだ。
部品を眺めていて、ある部品に紙が巻きついているのに気づいた。破かないよう注意深くそれを外すと、それは手紙だった。文字はかすれて読めないけれど、手紙だとわかった。
「レオ……この手紙、見ていいものじゃないわよね」
「きみ宛の手紙であれば見てもいいだろうけどね」
「もう、意地悪」
「満足したならオルゴールを戻すよ。手紙はわたしが預かっておこう」
レオはもう一度ぱちんと指を鳴らした。部品たちは生きてるように飛び跳ね自分のあるべき場所に収まり、オルゴールは元の形に戻った。
ねじを回してみる。きりきりと音を立てた後、オルゴールは可愛らしい音楽を奏で始めた。
「私……何となくだけど、このオルゴールはあの手紙の中身を表してる気がするわ」
「きみがそう思うなら、そうなんだろうね」
オルゴールをそっと胸に抱き、私はベッドに横たわった。
「私の心臓もオルゴールになったら素敵ね」
レオは返事をせず、窓の外を眺めていた。伏せる
お返事を! しました!
掌編を公開! しました!
改稿版の公開!まだです!! しました!!!!
掌編を公開! しました!
改稿版の公開!
#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を書くぞうの企画15日目!
Day.15. 烏の視線
学校帰りの午後のこと。空は高く澄み渡り、風は涼しい。歩いていて心地よい気候だった。
そんな心地よさの中、ふと違和感に気づく。
道の先の街灯、そのてっぺんに、一羽の烏がいた。動かず、鳴かず、じっと私を見ている。
「気づいたかい?」
煙のように姿を現したレオが笑う。その口ぶりからして、随分前から私を見ていたのだろう。
「君に気づいてほしいんだろう。今日はやけにわかりやすい場所にいる」
レオによれば、その烏は見届け役だという。魔道書に触れた者を観察する存在。何かしらの判断も下さない、干渉もしない、けれど決して逃がさない。
「何のために私を見張るの?」
「さてね。魔道書を書いた誰かが、使用者の行く末を見たいのかもしれない」
烏は私たちがどれだけ歩いても同じ距離でついてきた。どの角を曲がっても、先回りして街灯の上に佇んでいた。
遠回りをしたせいで夕暮れが近づき、空が赤く染まりだす。私は烏を見やり、ため息のように呟いた。
「何だか不気味」
「仕方ない。きみはあの本を開いたからね」
レオの言葉に一度足を止め、自分の影、街灯の影、そして烏の影に目を落とす。影は動かない。動かない私を、烏は今もじっと見つめている。
「……見られてるだけ。それなら何も起こらない」
顔を上げ、私は再び歩き出した。
「寒くなってきちゃった。帰ったら紅茶でも飲もうかな」
「それはいい。クッキーもあればなおいいけれど」
「レオも紅茶を?」
「おや、わたしには出してくれないつもりだったのか?」
歩き出した私たちの後ろで、静かな羽音が聞こえた。けれど私はもう、振り返らなかった。伏せる
Day.15. 烏の視線
学校帰りの午後のこと。空は高く澄み渡り、風は涼しい。歩いていて心地よい気候だった。
そんな心地よさの中、ふと違和感に気づく。
道の先の街灯、そのてっぺんに、一羽の烏がいた。動かず、鳴かず、じっと私を見ている。
「気づいたかい?」
煙のように姿を現したレオが笑う。その口ぶりからして、随分前から私を見ていたのだろう。
「君に気づいてほしいんだろう。今日はやけにわかりやすい場所にいる」
レオによれば、その烏は見届け役だという。魔道書に触れた者を観察する存在。何かしらの判断も下さない、干渉もしない、けれど決して逃がさない。
「何のために私を見張るの?」
「さてね。魔道書を書いた誰かが、使用者の行く末を見たいのかもしれない」
烏は私たちがどれだけ歩いても同じ距離でついてきた。どの角を曲がっても、先回りして街灯の上に佇んでいた。
遠回りをしたせいで夕暮れが近づき、空が赤く染まりだす。私は烏を見やり、ため息のように呟いた。
「何だか不気味」
「仕方ない。きみはあの本を開いたからね」
レオの言葉に一度足を止め、自分の影、街灯の影、そして烏の影に目を落とす。影は動かない。動かない私を、烏は今もじっと見つめている。
「……見られてるだけ。それなら何も起こらない」
顔を上げ、私は再び歩き出した。
「寒くなってきちゃった。帰ったら紅茶でも飲もうかな」
「それはいい。クッキーもあればなおいいけれど」
「レオも紅茶を?」
「おや、わたしには出してくれないつもりだったのか?」
歩き出した私たちの後ろで、静かな羽音が聞こえた。けれど私はもう、振り返らなかった。伏せる
読んだよフォームから感想送ってくださった方、ありがとうございます!! 夜にお返事させていただきます! 感想ありがたいですわーいやったー!
それはそれとして読み返すと「今月こそは……更新せねば……!」と急いで書いたせいでぐちゃぐちゃな部分が目立って「ああ〜〜〜〜」になっちゃうので後日改稿版を載せ直したいと思います。伏せる
それはそれとして読み返すと「今月こそは……更新せねば……!」と急いで書いたせいでぐちゃぐちゃな部分が目立って「ああ〜〜〜〜」になっちゃうので後日改稿版を載せ直したいと思います。伏せる
今日はサイトとお渋に短編を一本とてがろぐ(ここ)に14日目の掌編一本を載せました。ネタ自体はあるから先月更新できなかった分今月もう一本短編書けたらいいなとか思ってるけどできるかなどうかな……やって……みるべぇ!
#人外と人間 で100日かけて100本掌編を書こう企画その! じゅう! よん!
Day.14 水たまり
雨上がりの道を歩いていたときのこと。道の真ん中に、大きな水たまりができていた。そこには鏡のように綺麗に青空が映り込んでいる。
「水たまりって、空の穴みたいね」
水たまりを覗き込み笑う私に、レオは真面目な顔で「あまり覗き込むものじゃないよ」と言う。
「気をつけないときみも落ちるよ、ミーナ」
「ほらご覧」とレオが白い手袋をはめた指で示すのは、水たまりのある一点。じっと見ていると、何かがぐんぐん近づいてきた。
「おっと、危ない」
ちっとも慌てていない声のレオに腕を引かれ、一歩後ずさる。その瞬間、私の鼻先を掠めて何かが飛び出した。それは黒い影となり、そのまま空へ向かって消えていく。
あのままぶつかっていたら、私の顔に穴が空いたかもしれない。そう思わせるスピードに、心臓がどくどくと早鐘に代わる。
「今の、なに?」
どうにか声を絞り出した私に、レオはこともなさげに「かつてどこかから落ちたものさ」と答える。
「きみも不用意にどこかから飛び降りたりしないことだ。あんな風に、空に囚われる落ち続けなきゃいけないことがあるからね」
ゾッとするようなことを、レオは何でもないことのように言う。
私が「落ちたりしないわ」と返せば、「落ちないだろうね」とレオはうなずく。
「何せわたしが守っているからね」
そう。そうだ。レオはいつでも私を守ってくれている。それはわかってる。わかってはいるけれど……。
「ねえ、レオ。……怖いから、家に着くまでそのまま私のそばにいて」
「いつもそばにいるけれど……きみが望むなら、姿を現しておくよ」
水たまりが見えるたび、また何か飛び出してこないかと怖くなってレオの三つ揃いを掴んでしまう。そんな私を、レオはおかしそうに、けれどどこか微笑ましげに見ていた。
伏せる
Day.14 水たまり
雨上がりの道を歩いていたときのこと。道の真ん中に、大きな水たまりができていた。そこには鏡のように綺麗に青空が映り込んでいる。
「水たまりって、空の穴みたいね」
水たまりを覗き込み笑う私に、レオは真面目な顔で「あまり覗き込むものじゃないよ」と言う。
「気をつけないときみも落ちるよ、ミーナ」
「ほらご覧」とレオが白い手袋をはめた指で示すのは、水たまりのある一点。じっと見ていると、何かがぐんぐん近づいてきた。
「おっと、危ない」
ちっとも慌てていない声のレオに腕を引かれ、一歩後ずさる。その瞬間、私の鼻先を掠めて何かが飛び出した。それは黒い影となり、そのまま空へ向かって消えていく。
あのままぶつかっていたら、私の顔に穴が空いたかもしれない。そう思わせるスピードに、心臓がどくどくと早鐘に代わる。
「今の、なに?」
どうにか声を絞り出した私に、レオはこともなさげに「かつてどこかから落ちたものさ」と答える。
「きみも不用意にどこかから飛び降りたりしないことだ。あんな風に、空に囚われる落ち続けなきゃいけないことがあるからね」
ゾッとするようなことを、レオは何でもないことのように言う。
私が「落ちたりしないわ」と返せば、「落ちないだろうね」とレオはうなずく。
「何せわたしが守っているからね」
そう。そうだ。レオはいつでも私を守ってくれている。それはわかってる。わかってはいるけれど……。
「ねえ、レオ。……怖いから、家に着くまでそのまま私のそばにいて」
「いつもそばにいるけれど……きみが望むなら、姿を現しておくよ」
水たまりが見えるたび、また何か飛び出してこないかと怖くなってレオの三つ揃いを掴んでしまう。そんな私を、レオはおかしそうに、けれどどこか微笑ましげに見ていた。
伏せる
#人外と人間 で100日かけて100本掌編を書こう企画その13!
Day.13 貘
眠るミーナの頭の上に、貘がいる。どこぞの誰かの夢を、わざわざミーナの頭の上で食べているようだ。
このまま貘の重さにうなされるミーナを見るのも面白いが、わたし以外がミーナに触れているのは面白くない。
わざとらしく咳払いし、わたしは貘に話しかけた。
「そんな場所で彼女の夢ではなく他人の夢を食べるのは、どういう理由からだ?」
貘はゆるゆると頭をもたげると、こちらを向いた。眠たげな目がわたしを捉える。
「あのねぇ、ここはねぇ、座り心地がいいんだぁ」
「きみにはそうだろうが、ミーナにとってはそうではない。せめてクッションに乗ってやってくれ」
「この子はねぇ、守られてるからねぇ、心地がいいんだぁ」
答えになっていない。ミーナのうなされる声がわずかに大きくなる。言葉で促しても移動しないなら、力で移動させるまで。
わたしは指をぱちりと鳴らし、貘の尻尾に火をつけてやった。
ギャッと声を上げた貘はそのまま姿を消し、その声に驚いたミーナががばりと起き上がった。
「レオっ? 今の声、なぁに?」
「今の声? 何のことだい?」
とぼけるわたしを疑うこともなく、ミーナは「夢だったのかな……」とまたベッドに潜り込んだ。貘のせいで乱れた髪を直してやりながら、「おやすみ」と微笑みかける。ミーナはもう瞼が上がらないらしい。「おやすみなさい」ともごもご呟いたかと思うと、すぐに寝息を立て始めた。
健やかな寝顔は、あの頃と何ら変わらない。
懐かしく愛おしいミーナの寝顔を、わたしは朝が来るまで、飽きることなく見つめていた。伏せる
Day.13 貘
眠るミーナの頭の上に、貘がいる。どこぞの誰かの夢を、わざわざミーナの頭の上で食べているようだ。
このまま貘の重さにうなされるミーナを見るのも面白いが、わたし以外がミーナに触れているのは面白くない。
わざとらしく咳払いし、わたしは貘に話しかけた。
「そんな場所で彼女の夢ではなく他人の夢を食べるのは、どういう理由からだ?」
貘はゆるゆると頭をもたげると、こちらを向いた。眠たげな目がわたしを捉える。
「あのねぇ、ここはねぇ、座り心地がいいんだぁ」
「きみにはそうだろうが、ミーナにとってはそうではない。せめてクッションに乗ってやってくれ」
「この子はねぇ、守られてるからねぇ、心地がいいんだぁ」
答えになっていない。ミーナのうなされる声がわずかに大きくなる。言葉で促しても移動しないなら、力で移動させるまで。
わたしは指をぱちりと鳴らし、貘の尻尾に火をつけてやった。
ギャッと声を上げた貘はそのまま姿を消し、その声に驚いたミーナががばりと起き上がった。
「レオっ? 今の声、なぁに?」
「今の声? 何のことだい?」
とぼけるわたしを疑うこともなく、ミーナは「夢だったのかな……」とまたベッドに潜り込んだ。貘のせいで乱れた髪を直してやりながら、「おやすみ」と微笑みかける。ミーナはもう瞼が上がらないらしい。「おやすみなさい」ともごもご呟いたかと思うと、すぐに寝息を立て始めた。
健やかな寝顔は、あの頃と何ら変わらない。
懐かしく愛おしいミーナの寝顔を、わたしは朝が来るまで、飽きることなく見つめていた。伏せる
#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を書こう企画 12日目。
Day.12. 星屑
ある夜のこと。自室の窓を開けたら、星屑が飛び込んできた。星ではなく星屑と称したのは、本当に小さな星々だったから。
その星屑たちは、まるで仔犬のように私のウエスト辺りでくるくる回った。甲高く小さな声が、私の名を呼ぶ。
「ミーナ、ミーナ」
「可愛いねぇ、ミーナ」
「連れてっちゃいたいねぇ」
「連れてっちゃおうか」
「連れてっちゃおうよ」
「そうしよう」
え、と思う間もなく、私の体は宙に浮いた。星屑は私の周りをくるくる回るまま、私を窓の外へ連れて行く。
「れ、」
レオ、と言い切る前に、レオの白い手袋をはめた手が私の手を掴んでいた。
「ミーナを連れていくなら、お前たちを星屑と呼べないほどに砕くぞ」
レオの低い唸り声は、私すら身震いするほど恐ろしかった。それは星屑たちも同じだったようで、くるりくるりと回りながら、私のウエスト周辺から首周辺、そしてつむじの上へと移動し、夜空へ帰って行った。
私を窓の中へ戻さず、宙に浮かせたままで。
星屑たちの不思議な力を失い、私の体はそのまま外へ落ちていくかと思われた。けれどレオがいる限り、そうはならない。
レオは窓から飛び出して、私を抱え宙に浮いた。そのまま横抱きで抱えられ、部屋の中に戻る。
「危なかったね、ミーナ」
「助けてくれてありがとう」
「きみを守るためにそばにいるんだ、当然さ」
おやすみと低く囁き、レオは私をベッドへ運んだ。毛布を被せられ、私は一先ず目を閉じ眠ったふりをした。けれど実のところ、眠れはしなかった。
レオに触れられた手が、背中が、じんわりと熱い。心臓が声高にときめきを訴えていて、まだまだ眠れそうになかった。伏せる
Day.12. 星屑
ある夜のこと。自室の窓を開けたら、星屑が飛び込んできた。星ではなく星屑と称したのは、本当に小さな星々だったから。
その星屑たちは、まるで仔犬のように私のウエスト辺りでくるくる回った。甲高く小さな声が、私の名を呼ぶ。
「ミーナ、ミーナ」
「可愛いねぇ、ミーナ」
「連れてっちゃいたいねぇ」
「連れてっちゃおうか」
「連れてっちゃおうよ」
「そうしよう」
え、と思う間もなく、私の体は宙に浮いた。星屑は私の周りをくるくる回るまま、私を窓の外へ連れて行く。
「れ、」
レオ、と言い切る前に、レオの白い手袋をはめた手が私の手を掴んでいた。
「ミーナを連れていくなら、お前たちを星屑と呼べないほどに砕くぞ」
レオの低い唸り声は、私すら身震いするほど恐ろしかった。それは星屑たちも同じだったようで、くるりくるりと回りながら、私のウエスト周辺から首周辺、そしてつむじの上へと移動し、夜空へ帰って行った。
私を窓の中へ戻さず、宙に浮かせたままで。
星屑たちの不思議な力を失い、私の体はそのまま外へ落ちていくかと思われた。けれどレオがいる限り、そうはならない。
レオは窓から飛び出して、私を抱え宙に浮いた。そのまま横抱きで抱えられ、部屋の中に戻る。
「危なかったね、ミーナ」
「助けてくれてありがとう」
「きみを守るためにそばにいるんだ、当然さ」
おやすみと低く囁き、レオは私をベッドへ運んだ。毛布を被せられ、私は一先ず目を閉じ眠ったふりをした。けれど実のところ、眠れはしなかった。
レオに触れられた手が、背中が、じんわりと熱い。心臓が声高にときめきを訴えていて、まだまだ眠れそうになかった。伏せる
100日100本以下略、Day.30まで書き終えたのであと20日弱は投稿が続きます。
Day.22 鏡
昨日の占いを思い出し、気をつけながら生活する――つもりだった。それなのに私は不用意に洗面所へ行き、鏡の前に立ってしまった。
顔を洗おうと屈み込んだ瞬間、鏡の中からにゅうと伸ばされた手に手を掴まれ、私は鏡の中に引きずり込まれた。
気づけば私は鏡の中。曇った鏡面越しに、もうひとりの〝私〟を見ていた。私の顔をして、私のように瞬きをして、私のように微笑む。
「ずっと待ってたの。あんたのじいさんが死ぬのを。あんたの守りが弱まるのを」
鏡の私はそう言うと、サッと顔を洗って私がいつもするように食堂へ行ってしまった。鏡の中に閉じ込められた私は、鏡面のある場所でしか彼女の動きを把握できない。
彼女は、それはそれは上手に私の真似をして過ごした。
学校では一人で過ごすし、登下校も一人で過ごす。家に帰ればちゃんと宿題をして、そして、そして――。
「ねえ、レオ」
「何だい、ミーナ」
私のように、レオの姿を感知する。レオを呼び、レオと話し、レオとほほ笑み合う。
――やだな。
胸のあたりが、チクチクと痛んだ。レオ、どうしてわからないの、レオ。その子は私じゃない。《《それ》》は私じゃないわ。
「私以外に笑いかけないで、レオ」
鏡の中の私の声は届かず、鏡面から跳ね返るばかり。そう思っていた。そう、思っていたのに。
レオは静かに、私を見た。鏡越しに私の目を見て、嬉しそうに笑う。
「可愛いことを言うね、ミーナ」
次の瞬間、彼の白い手袋をはめた指が鏡に触れた。音もなく鏡面が|水面《みなも》のように揺らぎ、彼の手が私の腕をつかむ。
力強い手が、私の体をぐいと引き上げる。私の体が出ると、レオは鏡の私を鏡の中へ突き飛ばした。
「鏡像は所詮鏡像だ。大人しく、ミーナの真似をしていればいい」
レオの声は穏やかで、けれど冷たかった。
鏡の中の私は鏡面を何度も叩いたけれど、もう外に出られないとわかると恨めしげに私を睨んでから、私の真似に戻ったまるで、何事もなかったかのように。
私は服の裾をぎゅっと握りしめる。
「……わかってたのね、レオ」
「助けてほしいときは名前を呼ぶよう言っただろう?」
「意地悪」
拗ねた声を返すと、レオはくすりと笑った。白い手袋越しの指先が、私の喉元を撫でる。
猫みたいにゴロゴロなんて、鳴いてあげない。それどころか、もう少し小さな子どもだったらその指に噛みついているところだ。
それくらい、胸の奥がくすぐったくて、悔しかった。
伏せる