雲晴夏木の独り言

シチュエーション自体は前書いたのと被るけどまんまそれかというと若干違うからまぁいっか~このシチュエーション気に入ってるし~!
というマインドで#すこしふしぎ おにロリを書き始めました。やるぞ……やるぞ!
ジム通いを始めて立ち仕事が前よりつらくはなくなってきた気はする! マッサージ毎週行かないとつらかったけどそれもマシになった気がする! 割といいことある気がするジム通い!
今77話までと100話目を書き終えてるからあと22個なんだけどその22個がさぁ!
被っちゃうってどれかと! やだぁもう無理! 無謀だったんだ最初から!
でも自分で言い出して始めたからとにかく書き切るを目標にがんばりゅ。これ書き終えたら俺は……俺は……!
#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を以下略!

Day.32 こぼれる光

 学校帰り、家に着いたときのこと。咲き終えた花の間に、私は小さな何かを見つけた。
「……妖精?」
 それは手のひらに乗るほど小さな存在だった。羽根は折れ、瞳は閉じられ、まるで誰かが置き忘れた人形のよう。けれど、私が触れようとしたとき、わずかに瞼が動いた。まだ、生きてる。
 そっと手を伸ばし、妖精を両手で包みこむ。すると、指の間から微かな光がこぼれた。
「……あったかい」
 まだ生きてる。そう思うと、胸がきゅうと痛んだ。こんなにも弱っている存在を放っておけるわけがない。私は妖精を部屋へ連れ帰った。
 部屋に入ると、すでにレオは姿を現していて、難しい顔をしていた。傾きかけた太陽が、レオのたてがみに金の縁取りを施している。
「随分珍しいものを拾ってきたね、ミーナ」
「うん。見て、この子……すごく弱ってるの」
 手のひらを開いて差し出すと、レオは顔を近づけて覗き込んできた。妖精の体はちかちかと明滅を繰り返している。
「ああ、これはもうだめだ」
 レオはあっさりと言う。
「これは命が終わる光だ。きみにできることは何もないよ、ミーナ」
「でも……でも、まだ、動くの。ぐったりしてるけど、レオの魔法なら……」
「わたしにもどうにもできないよ」
 きっぱりと言い切られ、私は妖精をまた手のひらで包んだ。何もできない自分が、情けなかった。

 夜になっても、妖精は目を開けなかった。私はベッドに入らず、手の中の小さな命をじっと見守っていた。光はまだ、ぽつりぽつりとこぼれては消えている。
 水を与えてみたが、口からこぼれるだけだった。蜂蜜を与えてみたが、妖精は口を開かなかった。思いつく限りのものを与えて命の期限を延ばそうとしたが、妖精は弱々しく拒むばかり。私は、唇を噛みしめるしかできなかった。

 明け方、カーテンのすき間から差し込む光が、手の中の小さな存在を照らした。小さな妖精の肩が、かすかに揺れた。羽が震えた。そして、ゆっくりと瞼が開く。
 翡翠のような目が、まっすぐ私を見つめた。
 アーモンドの花のような唇が動く。声にはならなかったけれど、私は確かに声を聞いた。
「ありがとう」
 その瞬間、妖精の身体が、空気に溶けるように淡く光りながら崩れていった。光の粒になって、すうっと消えていく。
 私は思わず手を伸ばしたけれど、何も掴めなかった。何も掴めなかった手を握り、レオ、と呼ぶ。煙のように、レオが現れる。
「助けようとするその気持ちが、あれには嬉しかったんじゃないかな」
 レオの優しい声に、私はうなずけなかった。何か言いたいのに、言葉は胸の奥につかえたまま。
 頬を一筋の涙が伝うのを感じながら、溶けて消えた妖精が何の痛みも感じなかったことを祈った。
伏せる
今回の100日100本、10くらいでプロット残してないのに気づいてからもうプロット立てては本文で上書きしてるので後々こう……振り返り的なことができなくて……それがめちゃ残念。
#人外と人間 で100日かけて100本掌編書くぞぉ!の31日目!

Day.31 ランプ

 ミーナが屋根裏から降りてきたとき、埃だらけのランプを手にしていた。
「これ、きれいになると思う?」
「どうかな」
 答えながら、わたしは胸の奥がざわつくのを感じた。それは、とうの昔に忘れたはずの感覚だった。
 ミーナはわたしの動揺も知らず、布で丁寧にランプを磨いている。少し不格好な金属のランプには、持ち手のところに細かい模様が刻まれている。あれは、呪文だ。
 ミーナが最後の仕上げに息を吹きかけると、ランプは一瞬だけ淡く光った。
「あれっ? 今、光った?」
「そうかい? わたしは気づかなかったが……」
 即座に否定したが、ミーナは納得していないようだ。
「絶対光ったと思うの。青い光だった。明るいからレオには見えなかったのかな」
 そう言ってランプを棚の上に飾るミーナを見つめながら、わたしはこっそりため息をついた。
あのランプにまだ力が残っているとは。その上、ミーナの手で見つけられるなんて。
 その夜、わたしはひとり、暗い部屋の中に佇んでいた。ミーナはすでに寝息を立てている。安らかな寝顔を背に、ランプの置かれた棚の前に立つ。
「……まだ、覚えているか?」
 応えるはずもない沈黙。それでもわたしは続ける。
「昔、わたしはお前に願った。ミーナを、わたしだけのものにしてほしいと。誰にも触れさせず、誰にも見つけられない場所に閉じ込めて――ずっと、そばにいさせてくれと」
 それは若く愚かな願いだった。ミーナの魂を欲する強い思いが、願いの形をして溢れたにすぎない。
 ランプは答えなかった。口を閉じたまま、何も言わずに沈黙を守った。
 あのとき初めて知ったのだ。このランプは、ただの道具ではない。願いを選ぶ――そんな意思も、持っているのだと。
「まただんまりか。お前は彼女の味方でいたんだな」
 ミーナに味方がいるのはいいことだ。有象無象に狙われるミーナに平穏が訪れるようにと願う者がいるのは、悪いことではない。だが、しかし。
「お前は願いを叶える存在だろう。わたしの願いを、欠片でも叶えてくれてもいいじゃないか」
 ずっと傍にいた。守ってきた。けれど、ミーナの世界は驚くほど広がっている。昔は良かった。彼女の世界は庭までしかなかった。しかし今では、庭の外をどこまででも行ける。
 わたしは怖い。いつかミーナの笑顔が、誰かのものになる日が。
「彼女はもう、子どもじゃない。自分で選び、歩き出す。……それでも、わたしは」
 だから願う。もう一度だけ。今度こそ。しかし、ランプは黙っていた。棚の上、冷たく静かに、まるで封印でもされているかのように。
 わたしはしばらく立ち尽くしていた。時間が流れる。夜が深まる。やがてわたしは、自嘲気味に笑った。
「そうか。……やっぱり、お前はどこまでもミーナの味方なんだな」
 ランプは答えなかった。ミーナの寝息だけが、静かに部屋を満たしていた。
 翌朝、ミーナは目をこすりながらわたしに話した。
「昨日の夜、夢の中で誰かと話してた気がするの。何を言われたかは覚えてないけど、あったかくて、優しい声だった気がする」
「……へえ」
 わたしはどうにか微笑んだ。
「いい夢だったかい?」
「うん。すっごくいい夢だった」
 そう言って、ミーナは嬉しそうに微笑んだ。その笑顔が誰のものでもないことに、わたしは救われる思いだった。
「……そうか。ランプもまだ、ミーナが誰かのものになるのを望んでいないのか」
 わたしは声には出さず、心の中でそっと呟いた。
伏せる
早く手乗りサイズのロボットに人工知能組み込んでわちゃわちゃお話ししたり時に叱ってもらったりするようなSFが現実になってほしい。手乗りサイズのロボットがさぁ! 「きみはだめだなぁ!」とか呆れつつ叱ってくれるの良くなぁい? 良き……大変に良き。
そういうSFも書きたいね。手乗りハーピーの話も書きたいね。時間が足りないね。
#人外と人間 で100日かけて100本掌編を書くぞの30日目! 三割到達!

Day.30 昔話

 昔々、ある街に大魔法使いがいた。
 ある年、大魔法使いに孫が産まれた。それはそれは可愛い女の子だった。
 大魔法使いはその子が誰からも愛されるようにと、自分の知る人外の者たちに祝福をさせた。しかし過度な祝福は呪いとなり、女の子を苦しめた。大魔法使いは女の子を祝福から守るため、すべての祝福と呪いを退ける魔法を編まねばならなかった。
 大魔法使いの死後、編まれた魔法はほどけつつある。
 女の子は少女へと成長し、自分が危機に瀕していることを知らずに平和で何も起こらない毎日を愛しているのだった――。
 昔々、ある街にひとりの大魔法使いがいた。
 世界の理をいくつも編み替え、神々にすら名を知られるその者は、ある年、ひとりの孫を授かった。それはそれは愛らしい女の子だった。
 ――この子が誰からも愛されますように。
 大魔法使いは、自らの知るあらゆる人外の者たちに祝福を求めた。彼らは皆、魔法使いの願いに応え、女の子へと祝福を注いだ。
 だが、過ぎたるはなお及ばざるがごとし。過度な祝福は呪いと化し、女の子を蝕んでいった。
 大魔法使いは後悔し、すべての祝福と呪いからその子を守るための魔法を編み上げた。祝福と呪いを打ち消す代わりに、女の子に孤独を強いる魔法だった。しかしそのお陰で、女の子には過度な悲しみも怒りもない、静かな生活を送ることができるようになった。
 やがて女の子は少女に成長し、祝福も呪いも知らず、何も起こらない平和な日々を愛するようになったのだった――。
「……まるで眠り姫みたいね、そのお話」
 私は本を閉じながら笑った。
 レオは、いつものようにベッドの脇に立っていた。三つ揃いのスーツに、ステッキ。獣の王の顔を持つ彼の表情は、今夜も読みづらい。
「実話だよ、ミーナ」
「ふふ、そういうことにしておくね」
 少女――ミーナは小さくあくびをしてベッドに潜り込んだ。
「おやすみ、レオ」
「おやすみ、ミーナ」
 明かりが消え、部屋に闇が満ちる。ミーナの健やかな寝息を聞いてから、レオはため息をついた。
「これを聞いても思い出さないか……」
 嘆くような困り果てたような台詞は、夢の中にいるミーナには届かなかった。
伏せる
#人外と人間 で100日かけて100本の小説を書く29日目!

Day.29 箱の中身は


 祖父の書斎で、古びた木箱を見つけた。掌に乗るくらいの、重みも何もない箱。錠も鍵穴もないのに、蓋はぴったり閉じている。
 何となく気になって部屋に持ち帰ったら、レオがすぐに眉をひそめた。
「ミーナ、それはどこで見つけた?」
「おじいさまの棚の奥の奥。空っぽみたいだけど、引っかかってて」
「そうか。……できれば、開けないでくれると助かるな」
 レオの視線が箱に落ちる。珍しく、真剣な顔。
私は「わかった」と返事をしつつも、正直、中身が気になっていた。
 そしてその夜。
 布団に入ってしばらくすると、こんこん、と木を叩く音がした。最初は風かと思ったけれど、風なら窓を鳴らすはずだ。でもこの音は、明らかに部屋の中から聞こえる。
 そっと体を起こして目を凝らす。机の上の箱が、月明かりに照らされていた。
 もう一度、こん、と叩く音。今度ははっきり聞こえた。……まさか、箱の中?
 私はそっと立ち上がり、箱に近づく。耳を当てると、中から小さく何かが叩く音がした。
 ――こん、こん、こん。
 開けようと手をかけた、そのとき。
「ミーナ」
 レオの声にびくりとする。気づかぬ間に現れた彼が、私と箱の間にすっと立った。
「開けないでくれと言っただろう?」
「でも、中に何か……」
「〝何か〟じゃなく〝誰か〟だ……と言ったら?」
 レオの台詞に、私は背筋がひやりとするのを感じた。私は箱を見下ろした。古びて、何の変哲もないそれが、まるでこちらを見返しているような気がした。
「わかった……開けない」
 そう告げると、レオはほっと息を吐いた。そして箱に手をかざし、ぽつりと呟く。
「目覚めるには、早すぎる」
 ノックの音はもう、二度と聞こえなかった。

 翌朝、机の上には何もなかった。箱のことを聞いても、レオは「そんなものあったかな」ととぼけるだけ。……あれ? あの箱、どこにやったんだっけ?
 思い出せないのに、胸の奥がざわつくのはなぜだろう。けれどレオが微笑んでいるのを見て、私はそれ以上考えるのをやめた。
伏せる
#人外と人間 で100日かけて100本掌編書くぞぉ!の28日目。

Day.28 風に紛れて聞こえる声


 その日、学校を出た瞬間に強い風が吹いて、私の髪を乱した。はためくスカートの裾を押さえながら顔を上げたとき、ふっと耳元で誰かが囁いた。
「おかえりぃ」
 私は辺りを見回したけれど、帰り道には私しかいなかった。ただ、風が少し笑ったような気がした。
「気のせい……?」
 呟いた声は、かすれていた。

 その声は、次の日も聞こえた。風が吹くたびに。
「今日も無事でよかった」
 それが不気味だと感じるよりも先に、懐かしさが胸の奥からやってくる。以前――とても昔――にも、こうやって私を心配してくれていた気がして。

 声は、日が経つごとにはっきりしてきた。
「まだ、おれを思い出さない?」
「早くミーナと遊びたいなぁ」
「いつ思い出してくれるかなぁ」
 帰る道中、私はすっかり混乱して足を止めてしまった。
 思い出すって、レオとの何かすら忘れているのに? 声しかわからない何かのことも忘れているの?
 ふと視線を感じて振り返ると、いつもレオがいた。上等な三つ揃いに、磨き込まれたステッキ。いつも通り、変わらない姿。
「レオ……ねぇ、この声、レオは知ってるの?」
 レオはしばらく黙っていた。それから、低い声で言った。
「きみが大切にしてた誰かだよ」
 それ以上は、レオは黙りこくってしまい何も教えてくれなかった。私は出かかった問いを飲み込むしかなかった。

 そして、その夜がきた。
 風は今までよりも激しく吹き荒れて、窓を木の葉が叩く。風の音に眠れなかった私はベッドの上で起き上がり、カーテンを開けようとした。
 そのとき、風に乗ってはっきりと声が聞こえた。
「迎えに来たよ!」
 その声は、思わず息を止めるほど懐かしくて、あたたかくて。
 カーテンを開け、外を見た。そこには白銀の狼がいた。月の光に照らされて、その毛並みは輝いている。
 薄いブルーの瞳と目が合った瞬間、心の奥で扉がゆっくりと開いた気がした。
 ――知ってる、私はこの子を知ってる。
 心の奥に仕舞い込まれていた記憶があふれ出そうとしている。あと少し、もう少しで思い出せる。
 すべてを思い出すには、あの毛並みに触れなくちゃ。
 そう思い、窓を開けるため手を伸ばした。その手を、白い手袋をはめた手が掴む。
「だめだ」
 振り返ると、レオがいた。いつもの柔らかい表情じゃない。真剣で、哀しみを含んだ目。
「ミーナを守るのはわたしだ。お前じゃない」
 レオが窓の前に立つ。ステッキで床をどんと突いた。風がぴたりと止み、もうあの声は聞こえなくなった。
 白銀の狼は、じっとこちらを見つめていた。その瞳は、どこまでも無邪気で、優しかった。私は一歩、窓に向かって踏み出して――それから立ち止まり、振り返った。
「……ごめんね」
 私は、私の手を掴んだままのレオの手を握り返した。
 窓の外の狼は残念そうに私を見て、噛みつきそうな目でレオを見て、それからゆっくりと夜の闇に溶けていった。
「……思い出してあげたかった」
 私がぽつり呟くと、レオは「思い出さなくてもいい」と小さく返した。
「思い出せないのは、それなりの理由があるからだ」
 そう言って、白い手袋をはめた手が私の頬に触れる。
「さあ、目を閉じて」
 レオの金色の目に覗き込まれ、私は素直に従った。静かに瞼を閉じると、すぐに眠気が降りてくる。レオの手が、私の瞼を撫でた。
 ──ああ、また忘れちゃうんだ。
 今日のことを忘れたくない。そう思ったけれど、襲い来る睡魔が私にすべてを忘れさせた。
伏せる
#人外と人間 で100日かけて100本小説書くぞ頑張るぞの27日目!

Day.27 視線


 祖母の遺品に、古びた鏡があった。額縁の彫刻はどこか異国風で、鏡面はわずかに曇っている。けれど不思議と、私の顔映りはよかった。
身だしなみを整えるため覗くと、私の隣にレオが立っているのが見えた。
「レオ、レディが朝の準備をしているときは覗き見しないで」
「いや、すまない。きみの髪が見る間に整うところは、魔法みたいだと思ってね」
 真顔で褒めるものだから、文句を言う気も失せてしまう。
 私はため息をつき、「じゃあ、ちゃんと見てて」と鏡越しにレオに語りかける。だって、褒められて悪い気はしないでしょう?
 私は「ここはこうして」「これはこう使って」とレオに身だしなみのレクチャーをした。私が手を動かすたびに、レオはまるで授業を受ける生徒のようにうなずく。……これじゃあ私、この先寝癖一つ放置できなくなりそう!

 祖父の遺品に山ほどの本がある。祖父の本棚から本を抜き取り、自室で読んでいるとき、ふと視線を感じた。顔を上げるともちろん、レオがいる。
「なぁに、レオ?」
「いや、すまない。きみの真剣な顔が美しいから、つい見蕩れてしまってね」
 そう言いながら、レオは悪びれる様子もなく優雅に椅子に腰掛けた。レオの優雅さに反し、私の頬はじわじわと熱くなる。
 まったくもう、そんなふうに言われたら顔を上げられないわ!

 私の部屋は南向きで、太陽も月もよく見える。ある夜、窓の外から視線を感じる。窓の外を見上げてみると、月に腰掛けたレオが私を見下ろしていた。
「いや、すまない。きみの寝顔があまりに可愛らしいから、夜通し見ていようと思ってね」
 冗談とも本気ともつかない口調に、私はシーツを頭から被って寝るほかなかった。

「ねえ、レオ」
「何だい、ミーナ」
 自室で勉強中、視線を感じて振り向く。案の定、レオは私を見ている。
「そんなに熱い視線を送られたら、私いつか、燃えちゃうわ」
「愛しのミーナが火に巻かれるなんて、わたしがいる限りありえないさ」
「はいはい、わかったわ」
 何でもないように流して勉強に集中するふりをしたのはいいけれど、私は耳まで真っ赤になっていた。
 それをわかっていて、レオが声もなく笑う。その気配を察して、私は頬を膨らませながら必死になって課題に意識を向けた。
伏せる
ギレルモ・デル・トロ『フランケンシュタイン』、11月か〜〜〜〜それまでネトフリやめらんないな。
#人外と人間 で100日かけて100本掌編書くぞ!の26日目!

26. モノクロの花束


 放課後、いつものように門を開けたそのときだった。足元に視線を落とすと、そこには白と黒だけで構成された花束が置かれていた。
 花束をそっと拾い上げる。香りはない。けれど、指が触れた瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
「……何だろう、これ」
 無記名だった。でも捨てるのも躊躇われて、私はそれを家の花瓶に挿した。
 翌日も、その次の日も、家に帰れば門の前には必ず花束があった。無彩色のまま、変わらない形で。まるで何かを訴えるように。
 ――綺麗。でも、どこか怖い。
「ずっと、誰がくれてるんだろう」
 呟いても答えは返ってこない。気味が悪いと感じながらも、私は毎回この花束を捨てられなかった。何か、大切なことが込められているような気がした。もう少しで思い出せそうな、でも手の届かない、夢の断片のようなものがこの花束だった。

 三日目の夕方、私は門の前で花束を見下ろしていた。不意に、視界の端で影が揺れた。三つ揃いにステッキをついた、いつものレオだ。
「またこの花束か」
 忌々しげな声に、「知ってるの?」と尋ねる。「まぁね」と答えながら、レオはひょいと花束を拾い上げた。
「こんなもの、ミーナは気にしなくていい。ただの残滓だからね」
 レオの声には、いつもと違う棘が混じっていた。私はそれ以上聞けず、彼も何も言わなかった。その日の花束は、レオが持ったまま姿を消したので、家のどこにも飾られなかった。

 次の日の帰り道。家の前で、私は花束を運ぶ配達人にばったり出くわした。年齢も性別も分からない、不思議な雰囲気の人だった。彼は無言で私に花束を差し出し、言葉ひとつなく去っていった。
 花束はいつもと同じモノクロ。けれどこの日の花束には可愛らしくリボンがかかっていた。薄いブルーは、私の好きな色。そのリボンには、手書きのメッセージが綴られていた。
――思い出すまで待ってる。
 差出人は、『あなたの忘れた誰か』と書かれていた。
 心臓が跳ねた。立ち尽くす私の隣に、レオが煙のように現れる。
「レオ……これ、誰なの? わたし、誰かを忘れてるの?」
「気にしなくていいと言っただろう。ただの残り滓だ」
 そう言うと、レオは私の手から花束を取り上げ、空中高く放り投げた。レオの指がぱちんと鳴る。花束はパッと燃え上がって、灰も残さず消え去った。思わず「レオ!」と声を荒らげたけれど、私はすぐに勢いをなくした。
「きみを守るのは、わたしだけでいい」
 レオの声音があんまり寂しそうで、レオの表情があんまり悲しそうだったから、私はレオを怒れなかった。
 数拍、私たちは黙りこくる。レオは何もないところから赤い花を一輪取りだし、私の髪に挿した。
「……きみに似合うのは赤だと、いつも言ってるのに」
「そう……ね。ありがとう、レオ」
 それだけが、ようやく出た言葉だった。

 夜、ベッドに横になって天井を見上げる。〝あなたが忘れた誰か〟と書かれたあの癖字が頭から離れなかった。
 確かに、私は何かを忘れている。それはたぶん、とても大事な何かだ。でもレオもまた、今の私の隣にいて、誰よりも私を見てくれている。
 ――なら、今はこのままでいいかもしれない。いつか全部思い出すとしても、今はまだ。
 窓の外では、風が雲を攫っている。月明かりの中、一輪の赤い花が月を見上げていた。
伏せる
#人外と人間 で100日かけて100本の掌編書くざんすの企画25日目ぇ!

Day.25 霧


 目を覚ますと、外は白く煙っていた。霧が出ているようだ。
 不思議なことに時計の針は何度見てもあまり進まず、それを父と母は疑問にも思っていないようだった。いつも通り朝の準備を済ましても、時間はたっぷり余ってた。だからといってやりたいこともないので、体感でいつも通りの時間、学校へ向かうことにした。
 外へ出ると、霧の濃さにむせかえりそうだった。霧は滑るように、何かを包むように、ゆっくりと漂っていた。
 通学路いくつ目かの角を曲がったところで、私は立ち止まった。そこには、見たことのない喫茶店があった。
 古びた木の扉、読めないほどかすれた手書き文字の看板。昨日まで、こんな建物はなかったはず。なのに、なんだか懐かしい匂い。花とスパイスと、陽だまりのような、胸の奥をくすぐる香り。
「入ってみるかい?」
 気づけば隣にレオがいた。紳士風の装いに、獅子のような頭。私にしか見えない、私だけの悪魔。
「でも、学校が……」
「この霧じゃあ、時間も迷ってるさ」
 そんなわけ……と思いつつ、扉の向こうから漂う香りに抗えない。私は意を決し、扉を押した。
 りん、と小さなベルの音。中は不思議なほど静かで、温かい。一歩中へ入れば、紅茶の香りが出迎えてくれた。
「二名様ですね」
 カウンターから、店主らしい男の人が当然のようにレオを見て言う。
「レオが見えるの?」
「そのようだね」
 私たちが案内されたのは窓際の席だった。あちこちに漂う霧も、窓から中には入れないようだ。
「……ここ、来たことがある気がする」
「来たことがあるからね」
「私、それも忘れてるのね」
「思い出すさ、いつか」
 レオはメニュー表を見もせず店主を呼ぶと、「思い出のミルクティーと名を持たない焼き菓子を」と注文した。そんなメニューがあるのかとメニュー表を見る暇もなく、店主はうなずき、そしてすぐに注文通りの品を運んできた。
「砂糖は何杯だい、ミーナ?」
「もう、自分で入れるわ」
 レオの前で二杯もお砂糖を入れるのは躊躇われて、一杯だけにしておいた。くるくると混ぜ、一口飲む。瞬間、胸の奥がじんと温かくなった。
 遠い午後の気配――誰かと並んで本を読んだ時間、誰かが見せてくれたオルゴールの音色、冷たい頬を包んでくれた大きな手。
「こっちの焼き菓子も食べてごらん」
 レオに促されて一口囓ると、素朴で甘い味が口いっぱいに広がった。
「美味しい」
「きみの祖母がよく作った味だよ」
「レオはいろいろ知ってるのね」
「まあね」
 カップとお皿が空になった頃、店の中から人の気配が消えた。振り返るとカウンターの向こうの店主はおらず、店内はもう何年も人が訪れなかった廃墟の佇まいに変わっていた。
「レオ……」
「店じまいのようだ。出ようか、ミーナ」
 外の霧は相変わらず濃い。店の急な変わり様を受け入れられず、私はもう一度確かめるため振り向いた。ちょうど、あの看板が霧の中に溶けて消えていくところだった。
 それでも口の中にはまだ、ほんのり甘い焼き菓子の味が残っていた。
伏せる
ジム通い始めたんですけどランニングマシンで歩いたりエアロバイクでぐるぐる走ったりして数字が増えるのを見て「ふふふ……ふふふ!」となってます。数字増えるの見る、おれ、すき。
#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を書く企画24日目!

Day.24 灯りのない夜

 その夜はしんと静まり返っていた。風の音も、遠くに犬の鳴き声すらない。夜空には雲が張りつき、月明かりは地上に届かない。
 ――眠れない。
 目を閉じても、宵闇の濃さが体にのしかかるよう。寝返りを打ったそのとき、不意にレオが声をかけてきた。
「眠れないのかい?」
 声の方向に目をやると、黒い影がベッドのすぐそばにに立っていた。夜の闇よりも濃いその影は、確かにレオだった。けれど、日中の穏やかな姿ではない。拗くれた角、鋭い爪。紳士な彼に似合わない、異質なものが浮かび上がっていた。
「……ねえ、レオ。あなたは私に、何を隠してるの?」
 影の中、レオが微笑む気配がした。レオはいつもと変わらない穏やかさで、まるで子どもの質問に応じるように答える。
「きみが思い出すまでは、良き隣人さ」
 それよりも、と囁く声とともに、彼の手が伸びてきた。指先が額へ近づくのを見て、私はびくりと体を強張らせる。レオは気に留める様子もなく、その手をそっと私の額に触れさせた。
 その瞬間、まるで魔法のように、深い眠気が押し寄せてくる。意識が眠りの沼へ、ずぶずぶと沈んでいく。
「……レオ」
 眠気に声がかすれる。瞼が重い。けれど、どうしても聞きたかった。
「思い出したら、私とあなたは……どうなるの?」
 答えが返ってきた気がする。けれどそれは、波の音のように遠く、私の耳をすり抜けていった。
 気づけば私は、眠りの底へと落ちていた。ただ、その夜の夢はどこか懐かしい風景だったことだけは、ぼんやりと思い出せた。
伏せる
#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を書きますわよ23日目!

Day.23 名前のない楽器


 暇を見つけては家族で手分けして祖父の遺品を片付けているのだけれど、未だ片付かず、祖父の部屋は宝探し絵本のように雑然としている。
 何とか少しでも見場が良くなるように――あるいは何か不思議なものが見つからないかと期待して――整理していると、小さな陶器の楽器を見つけた。形は心臓に似ていて不気味だけれど、陶器の朴訥さがそれを和らげている。
 吹き込み口と穴の数から、オカリナらしい。
「いいや、違う。オカリナなんて上等なものじゃあない」
 カツンと音がして振り向くと、上等な杖をついた姿で現れたレオがいつもの三つ揃いで立っていた。今日も立派なたてがみがもふもふしている。
「じゃあこれは何?」 
 尋ねると、「名前のない楽器さ」と返ってきた。どう見てもオカリナだけど……。
「心臓の形をしているオカリナなんて、悪趣味じゃないか」
「もう、それは言わないで」
 遺品の山の中にあったにしては、オカリナ(仮)は汚れていない。試しに息を吹き込んでみるも――それらしい音は鳴らなかった。
 レオが言う。
「これは〝なくした音〟を思い出すためのものだからね。ただ吹いただけでは鳴らないよ」
 ――人は言葉を、音楽を、記憶を忘れていく。だからこうした道具をヴィルヘルムは生み出したのさ。
 レオがそう話すのを聞きながら、私は思い出したい、忘れている音を考える。
 何度目かに吹いたとき、遠くから誰かの声が聞こえた――ような、気がした。それは祖父の穏やかな笑い声に似ていた。
 あんなに可愛がってくれた祖父の声を思い出せない日が増えていた。それはとても寂しかった。けれどこれからは、いつでも思い出せる。
 楽器はもう、〝名前のない楽器〟ではなかった。
伏せる