雲晴夏木の独り言

#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を書いてくぞ企画その16!

Day.16 回らないオルゴール

 たまたま通りかかった古道具屋で、オルゴールが目に入った。叩き売りとしか思えない値札がつけられたそれを手に取り店主に声をかけると、「音が出ないんだ」と返ってきた。
「ねじが回らなくてね。音が鳴らないんだよ。それでも買うのかい?」
 私が買わなければ、捨てられてしまったりするのだろうか。そう思うと気の毒で、気づけば私は「買います」と答えて硬貨を店主に渡していた。
「また余計なものを……」と背後でレオが呟いた気がしたけれど、振り向いたりはしなかった。

 夜、自室でオルゴールのねじを回してみようとした。けれど店主の言う通り、ねじは回らなかった。蓋を開けようと試しても、こちらも開かない。
 部屋の空気が揺らぎ、レオが姿を現す。呆れ顔のレオに「気になるんだもの」と口を尖らせ言い訳する。レオはため息をついた。オルゴールへちらりと目を向けたレオは、「それは誰かの心臓だったものだ」と言う。
 レオが嘘をついたことは(今のところだけれど)ない。レオがそう言うのなら、そうなんだろう。どうして心臓がオルゴールになったのかはわからないけれど。
「ねえ、レオ。このオルゴールが音を鳴らせるようにできない?」
「もちろんできるが……気分が悪くなるかも知れないよ」
「え」
 私が了承する前に、レオはぱちんと指を鳴らした。オルゴールはぱかんと小気味いい音を立てて分解された。
 オルゴールの部品はどれもうっすら赤い。血のような色だけれど、それにしては鮮やかだ。
 部品を眺めていて、ある部品に紙が巻きついているのに気づいた。破かないよう注意深くそれを外すと、それは手紙だった。文字はかすれて読めないけれど、手紙だとわかった。
「レオ……この手紙、見ていいものじゃないわよね」
「きみ宛の手紙であれば見てもいいだろうけどね」
「もう、意地悪」
「満足したならオルゴールを戻すよ。手紙はわたしが預かっておこう」
 レオはもう一度ぱちんと指を鳴らした。部品たちは生きてるように飛び跳ね自分のあるべき場所に収まり、オルゴールは元の形に戻った。
 ねじを回してみる。きりきりと音を立てた後、オルゴールは可愛らしい音楽を奏で始めた。
「私……何となくだけど、このオルゴールはあの手紙の中身を表してる気がするわ」
「きみがそう思うなら、そうなんだろうね」
 オルゴールをそっと胸に抱き、私はベッドに横たわった。
「私の心臓もオルゴールになったら素敵ね」
 レオは返事をせず、窓の外を眺めていた。伏せる