雲晴夏木の独り言

#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を書きますわよ23日目!

Day.23 名前のない楽器


 暇を見つけては家族で手分けして祖父の遺品を片付けているのだけれど、未だ片付かず、祖父の部屋は宝探し絵本のように雑然としている。
 何とか少しでも見場が良くなるように――あるいは何か不思議なものが見つからないかと期待して――整理していると、小さな陶器の楽器を見つけた。形は心臓に似ていて不気味だけれど、陶器の朴訥さがそれを和らげている。
 吹き込み口と穴の数から、オカリナらしい。
「いいや、違う。オカリナなんて上等なものじゃあない」
 カツンと音がして振り向くと、上等な杖をついた姿で現れたレオがいつもの三つ揃いで立っていた。今日も立派なたてがみがもふもふしている。
「じゃあこれは何?」 
 尋ねると、「名前のない楽器さ」と返ってきた。どう見てもオカリナだけど……。
「心臓の形をしているオカリナなんて、悪趣味じゃないか」
「もう、それは言わないで」
 遺品の山の中にあったにしては、オカリナ(仮)は汚れていない。試しに息を吹き込んでみるも――それらしい音は鳴らなかった。
 レオが言う。
「これは〝なくした音〟を思い出すためのものだからね。ただ吹いただけでは鳴らないよ」
 ――人は言葉を、音楽を、記憶を忘れていく。だからこうした道具をヴィルヘルムは生み出したのさ。
 レオがそう話すのを聞きながら、私は思い出したい、忘れている音を考える。
 何度目かに吹いたとき、遠くから誰かの声が聞こえた――ような、気がした。それは祖父の穏やかな笑い声に似ていた。
 あんなに可愛がってくれた祖父の声を思い出せない日が増えていた。それはとても寂しかった。けれどこれからは、いつでも思い出せる。
 楽器はもう、〝名前のない楽器〟ではなかった。
伏せる