#人外と人間 で100日かけて100本掌編を書くぞの30日目! 三割到達! Day.30 昔話 伏せ 昔々、ある街に大魔法使いがいた。 ある年、大魔法使いに孫が産まれた。それはそれは可愛い女の子だった。 大魔法使いはその子が誰からも愛されるようにと、自分の知る人外の者たちに祝福をさせた。しかし過度な祝福は呪いとなり、女の子を苦しめた。大魔法使いは女の子を祝福から守るため、すべての祝福と呪いを退ける魔法を編まねばならなかった。 大魔法使いの死後、編まれた魔法はほどけつつある。 女の子は少女へと成長し、自分が危機に瀕していることを知らずに平和で何も起こらない毎日を愛しているのだった――。 昔々、ある街にひとりの大魔法使いがいた。 世界の理をいくつも編み替え、神々にすら名を知られるその者は、ある年、ひとりの孫を授かった。それはそれは愛らしい女の子だった。 ――この子が誰からも愛されますように。 大魔法使いは、自らの知るあらゆる人外の者たちに祝福を求めた。彼らは皆、魔法使いの願いに応え、女の子へと祝福を注いだ。 だが、過ぎたるはなお及ばざるがごとし。過度な祝福は呪いと化し、女の子を蝕んでいった。 大魔法使いは後悔し、すべての祝福と呪いからその子を守るための魔法を編み上げた。祝福と呪いを打ち消す代わりに、女の子に孤独を強いる魔法だった。しかしそのお陰で、女の子には過度な悲しみも怒りもない、静かな生活を送ることができるようになった。 やがて女の子は少女に成長し、祝福も呪いも知らず、何も起こらない平和な日々を愛するようになったのだった――。 「……まるで眠り姫みたいね、そのお話」 私は本を閉じながら笑った。 レオは、いつものようにベッドの脇に立っていた。三つ揃いのスーツに、ステッキ。獣の王の顔を持つ彼の表情は、今夜も読みづらい。 「実話だよ、ミーナ」 「ふふ、そういうことにしておくね」 少女――ミーナは小さくあくびをしてベッドに潜り込んだ。 「おやすみ、レオ」 「おやすみ、ミーナ」 明かりが消え、部屋に闇が満ちる。ミーナの健やかな寝息を聞いてから、レオはため息をついた。 「これを聞いても思い出さないか……」 嘆くような困り果てたような台詞は、夢の中にいるミーナには届かなかった。 伏せる 短い話 2025/06/05(Thu)19:32:16
Day.30 昔話
昔々、ある街に大魔法使いがいた。
ある年、大魔法使いに孫が産まれた。それはそれは可愛い女の子だった。
大魔法使いはその子が誰からも愛されるようにと、自分の知る人外の者たちに祝福をさせた。しかし過度な祝福は呪いとなり、女の子を苦しめた。大魔法使いは女の子を祝福から守るため、すべての祝福と呪いを退ける魔法を編まねばならなかった。
大魔法使いの死後、編まれた魔法はほどけつつある。
女の子は少女へと成長し、自分が危機に瀕していることを知らずに平和で何も起こらない毎日を愛しているのだった――。
昔々、ある街にひとりの大魔法使いがいた。
世界の理をいくつも編み替え、神々にすら名を知られるその者は、ある年、ひとりの孫を授かった。それはそれは愛らしい女の子だった。
――この子が誰からも愛されますように。
大魔法使いは、自らの知るあらゆる人外の者たちに祝福を求めた。彼らは皆、魔法使いの願いに応え、女の子へと祝福を注いだ。
だが、過ぎたるはなお及ばざるがごとし。過度な祝福は呪いと化し、女の子を蝕んでいった。
大魔法使いは後悔し、すべての祝福と呪いからその子を守るための魔法を編み上げた。祝福と呪いを打ち消す代わりに、女の子に孤独を強いる魔法だった。しかしそのお陰で、女の子には過度な悲しみも怒りもない、静かな生活を送ることができるようになった。
やがて女の子は少女に成長し、祝福も呪いも知らず、何も起こらない平和な日々を愛するようになったのだった――。
「……まるで眠り姫みたいね、そのお話」
私は本を閉じながら笑った。
レオは、いつものようにベッドの脇に立っていた。三つ揃いのスーツに、ステッキ。獣の王の顔を持つ彼の表情は、今夜も読みづらい。
「実話だよ、ミーナ」
「ふふ、そういうことにしておくね」
少女――ミーナは小さくあくびをしてベッドに潜り込んだ。
「おやすみ、レオ」
「おやすみ、ミーナ」
明かりが消え、部屋に闇が満ちる。ミーナの健やかな寝息を聞いてから、レオはため息をついた。
「これを聞いても思い出さないか……」
嘆くような困り果てたような台詞は、夢の中にいるミーナには届かなかった。
伏せる