雲晴夏木の独り言

#人外と人間 で100日かけて100本の掌編を書く企画24日目!

Day.24 灯りのない夜

 その夜はしんと静まり返っていた。風の音も、遠くに犬の鳴き声すらない。夜空には雲が張りつき、月明かりは地上に届かない。
 ――眠れない。
 目を閉じても、宵闇の濃さが体にのしかかるよう。寝返りを打ったそのとき、不意にレオが声をかけてきた。
「眠れないのかい?」
 声の方向に目をやると、黒い影がベッドのすぐそばにに立っていた。夜の闇よりも濃いその影は、確かにレオだった。けれど、日中の穏やかな姿ではない。拗くれた角、鋭い爪。紳士な彼に似合わない、異質なものが浮かび上がっていた。
「……ねえ、レオ。あなたは私に、何を隠してるの?」
 影の中、レオが微笑む気配がした。レオはいつもと変わらない穏やかさで、まるで子どもの質問に応じるように答える。
「きみが思い出すまでは、良き隣人さ」
 それよりも、と囁く声とともに、彼の手が伸びてきた。指先が額へ近づくのを見て、私はびくりと体を強張らせる。レオは気に留める様子もなく、その手をそっと私の額に触れさせた。
 その瞬間、まるで魔法のように、深い眠気が押し寄せてくる。意識が眠りの沼へ、ずぶずぶと沈んでいく。
「……レオ」
 眠気に声がかすれる。瞼が重い。けれど、どうしても聞きたかった。
「思い出したら、私とあなたは……どうなるの?」
 答えが返ってきた気がする。けれどそれは、波の音のように遠く、私の耳をすり抜けていった。
 気づけば私は、眠りの底へと落ちていた。ただ、その夜の夢はどこか懐かしい風景だったことだけは、ぼんやりと思い出せた。
伏せる