#人外と人間 で100日かけて100本の小説を書く29日目! Day.29 箱の中身は 伏せ 祖父の書斎で、古びた木箱を見つけた。掌に乗るくらいの、重みも何もない箱。錠も鍵穴もないのに、蓋はぴったり閉じている。 何となく気になって部屋に持ち帰ったら、レオがすぐに眉をひそめた。 「ミーナ、それはどこで見つけた?」 「おじいさまの棚の奥の奥。空っぽみたいだけど、引っかかってて」 「そうか。……できれば、開けないでくれると助かるな」 レオの視線が箱に落ちる。珍しく、真剣な顔。 私は「わかった」と返事をしつつも、正直、中身が気になっていた。 そしてその夜。 布団に入ってしばらくすると、こんこん、と木を叩く音がした。最初は風かと思ったけれど、風なら窓を鳴らすはずだ。でもこの音は、明らかに部屋の中から聞こえる。 そっと体を起こして目を凝らす。机の上の箱が、月明かりに照らされていた。 もう一度、こん、と叩く音。今度ははっきり聞こえた。……まさか、箱の中? 私はそっと立ち上がり、箱に近づく。耳を当てると、中から小さく何かが叩く音がした。 ――こん、こん、こん。 開けようと手をかけた、そのとき。 「ミーナ」 レオの声にびくりとする。気づかぬ間に現れた彼が、私と箱の間にすっと立った。 「開けないでくれと言っただろう?」 「でも、中に何か……」 「〝何か〟じゃなく〝誰か〟だ……と言ったら?」 レオの台詞に、私は背筋がひやりとするのを感じた。私は箱を見下ろした。古びて、何の変哲もないそれが、まるでこちらを見返しているような気がした。 「わかった……開けない」 そう告げると、レオはほっと息を吐いた。そして箱に手をかざし、ぽつりと呟く。 「目覚めるには、早すぎる」 ノックの音はもう、二度と聞こえなかった。 翌朝、机の上には何もなかった。箱のことを聞いても、レオは「そんなものあったかな」ととぼけるだけ。……あれ? あの箱、どこにやったんだっけ? 思い出せないのに、胸の奥がざわつくのはなぜだろう。けれどレオが微笑んでいるのを見て、私はそれ以上考えるのをやめた。 伏せる 短い話 2025/06/04(Wed)19:30:00
Day.29 箱の中身は
祖父の書斎で、古びた木箱を見つけた。掌に乗るくらいの、重みも何もない箱。錠も鍵穴もないのに、蓋はぴったり閉じている。
何となく気になって部屋に持ち帰ったら、レオがすぐに眉をひそめた。
「ミーナ、それはどこで見つけた?」
「おじいさまの棚の奥の奥。空っぽみたいだけど、引っかかってて」
「そうか。……できれば、開けないでくれると助かるな」
レオの視線が箱に落ちる。珍しく、真剣な顔。
私は「わかった」と返事をしつつも、正直、中身が気になっていた。
そしてその夜。
布団に入ってしばらくすると、こんこん、と木を叩く音がした。最初は風かと思ったけれど、風なら窓を鳴らすはずだ。でもこの音は、明らかに部屋の中から聞こえる。
そっと体を起こして目を凝らす。机の上の箱が、月明かりに照らされていた。
もう一度、こん、と叩く音。今度ははっきり聞こえた。……まさか、箱の中?
私はそっと立ち上がり、箱に近づく。耳を当てると、中から小さく何かが叩く音がした。
――こん、こん、こん。
開けようと手をかけた、そのとき。
「ミーナ」
レオの声にびくりとする。気づかぬ間に現れた彼が、私と箱の間にすっと立った。
「開けないでくれと言っただろう?」
「でも、中に何か……」
「〝何か〟じゃなく〝誰か〟だ……と言ったら?」
レオの台詞に、私は背筋がひやりとするのを感じた。私は箱を見下ろした。古びて、何の変哲もないそれが、まるでこちらを見返しているような気がした。
「わかった……開けない」
そう告げると、レオはほっと息を吐いた。そして箱に手をかざし、ぽつりと呟く。
「目覚めるには、早すぎる」
ノックの音はもう、二度と聞こえなかった。
翌朝、机の上には何もなかった。箱のことを聞いても、レオは「そんなものあったかな」ととぼけるだけ。……あれ? あの箱、どこにやったんだっけ?
思い出せないのに、胸の奥がざわつくのはなぜだろう。けれどレオが微笑んでいるのを見て、私はそれ以上考えるのをやめた。
伏せる