#人外と人間 で100日かけて100本掌編書くぞしかしその実態は休日に何本か書いて平日書けない分を補ってるぞ企画 Day.6 約束の時間 伏せ 夢を見た。何もない、強いて表現するなら分厚い雲の中のような空間で、誰かが「夕方の五時だよ」と私に言う。男か女か判然しない、ぼんやりとした声だった。見回しても、相手の姿は見えない。私がどこへともなく「五時に何があるの?」と聞いても相手は答えず、「約束だからね」とだけ言った。そして私は目を覚ました。 体を起こして固まる私に、レオが「どうしたんだい」と尋ねる。私が「変な夢を見たの」と夢の内容を話した。レオは「それは変な夢だったね」と微笑むだけだった。 その日一日、私は時間が気になって仕方がなかった。あらゆる時計の針が進んでいくのを見つめずにいられない。授業にも集中できず、何度叱られたことか。 授業を終え、家に帰っても時計が気になるのは変わらない。むしろひどくなった。何せ家にある時計が、一斉に狂いだしたのだから。 同じ時間に合わせていた時計がてんでばらばらの時間を刻み始める。それに伴って、家の中の時間が進んだり、戻ったりし始める。私だけがその影響を受けないまま、立ち尽くした。 「れ、レオ……レオ、レオ!」 「何だい、ミーナ」 姿を消していたレオが現れ、私のそばに立つ。私はレオに縋りつき、風をどうにかした時のように懇願した。 「助けて、これをどうにかして!」 「そうすると約束が果たせない。それでもいいんだね?」 いいも何も、約束をした覚えはない。誰かとの約束なんて、もう何年もしていない。私が「約束を守れなくてもいいから、時計を戻して!」と叫ぶと、レオはパチリと指を鳴らした。 途端に、時計たちは好き勝手に時を刻むのをやめた。家の中の時間が元に戻る。時計の針も、すべて父が合わせた通りになっていた。時計はもう、午後五時を過ぎていた。 ――約束、守れなかった。 ふとそんなことが頭を過った。けれど覚えていない約束よりも、私には今日の平穏が大事だった。 「何も起きてない、私の周りでは、今日も何も起きてない……」 繰り返す私に、レオだけが優しく――どこかおかしそうに――微笑んでいた。 伏せる 短い話 2025/05/12(Mon)19:31:57
Day.6 約束の時間
夢を見た。何もない、強いて表現するなら分厚い雲の中のような空間で、誰かが「夕方の五時だよ」と私に言う。男か女か判然しない、ぼんやりとした声だった。見回しても、相手の姿は見えない。私がどこへともなく「五時に何があるの?」と聞いても相手は答えず、「約束だからね」とだけ言った。そして私は目を覚ました。
体を起こして固まる私に、レオが「どうしたんだい」と尋ねる。私が「変な夢を見たの」と夢の内容を話した。レオは「それは変な夢だったね」と微笑むだけだった。
その日一日、私は時間が気になって仕方がなかった。あらゆる時計の針が進んでいくのを見つめずにいられない。授業にも集中できず、何度叱られたことか。
授業を終え、家に帰っても時計が気になるのは変わらない。むしろひどくなった。何せ家にある時計が、一斉に狂いだしたのだから。
同じ時間に合わせていた時計がてんでばらばらの時間を刻み始める。それに伴って、家の中の時間が進んだり、戻ったりし始める。私だけがその影響を受けないまま、立ち尽くした。
「れ、レオ……レオ、レオ!」
「何だい、ミーナ」
姿を消していたレオが現れ、私のそばに立つ。私はレオに縋りつき、風をどうにかした時のように懇願した。
「助けて、これをどうにかして!」
「そうすると約束が果たせない。それでもいいんだね?」
いいも何も、約束をした覚えはない。誰かとの約束なんて、もう何年もしていない。私が「約束を守れなくてもいいから、時計を戻して!」と叫ぶと、レオはパチリと指を鳴らした。
途端に、時計たちは好き勝手に時を刻むのをやめた。家の中の時間が元に戻る。時計の針も、すべて父が合わせた通りになっていた。時計はもう、午後五時を過ぎていた。
――約束、守れなかった。
ふとそんなことが頭を過った。けれど覚えていない約束よりも、私には今日の平穏が大事だった。
「何も起きてない、私の周りでは、今日も何も起きてない……」
繰り返す私に、レオだけが優しく――どこかおかしそうに――微笑んでいた。
伏せる