雲晴夏木の独り言

#人外と人間 の100日100本掌編書くぞ企画

Day.5 ふたつの月


 夜、お祈りを終えて空を見上げると、月が二つ浮かんでいた。今まで気づかなかった。いつから月は二つになったんだろう。
 不思議に思う私の頭を読んだように、レオが言う。
「あれは願いの成れの果てさ。承認欲求の成れの果てとも言えるね。誰かに自分の存在を認めてほしい、見てほしいと願い続け、しかし叶わなかった願いが集まりああして月の形を成した」
「全然、気づかなかった」
「きみの祖父はああいったものも見えないようにしていたからね」
「守られていたのね、私」
「守られているよ、今も」
「そうね、レオがいるものね」
 風の噂を消してくれたことを思い出しながら、窓を開ける。部屋の暗がりに佇むレオへ、ねえ、と呼びかける。
「あの月に、私の声は届く?」
「届くと思うが、伝わるかはわからないよ」
「届くなら、少し話してみる」
 今度は夜空に向かって、ねえ、と話しかけた。
「一人は寂しいかもしれないけれど、慣れればそう悪くないと思うの。人に見られるのって大変よ。揚げ足を取る人だっているし、悪く言う人だっているし、それに――」
 私が話している間に、二つ目の月はぐんぐんこちらへ落ちてきた。そこには人の顔が浮かんでいて、私をぎろりと睨みつけている。
 月に浮かぶ顔の鼻先が私の鼻先にくっつきそうになった頃、月は一言こう言った。
「わかった風な口をきくな」
 そう言って、偽の月はまた夜空へ戻っていった。私は震える手で窓を閉め、そっとベッドへ戻った。レオが笑いを堪えている気配を感じたけれど、気にする余裕なんてなかった。
 それ以来、私は空に二つの月が見えても見ない振りをしている。そうしていれば、私の日々は平穏なまま。
 今日も私の周りでは、何も起こらない。
伏せる