雲晴夏木の独り言

溜池の怪
語り部があなたに語るだけの掌編 #ホラー
 あなたはとある地域――仮に、××としよう。××へやってきたあなたは、目的地に行くために溜池のそばを通らねばならない。私は親切心から、あなたに忠告してあげようと思う。
 溜池の近くを通るとき、あなたは決して、池を見てはならない。必ず、眼を逸らして歩くように。
 けれど、ただ眼を逸らせばいいわけでもない。
 わざとらしく顔を逸らしてもいけないし、急ぎ足で通り過ぎてもいけない。冷静を装って、池なんか気にならないようなふりをして、歩きすぎなければ行けない。
 そうやって無関心を装っていても、池にいる《《あれ》》はきっと、あなたにアプローチをかけてくる。
 視界の端で何かが動くのを、あなたは捉えるだろう。
 子供が「あっ」と声を上げるのを聞くだろう。
 どぼん、と何かが落ちる音を聞くだろう。
 しかしそれでも、あなたは振り向いてはいけない。
 溜池を見てはいけない。
 あなたは聞こえなかったふりをして、見えなかったふりをして、歩き去らなくてはいけない。驚いて振り向いたり、恐怖に走りだしてはいけない。
 言うことを聞かなければ、どうなるのか? さて、どうなるのやら。
 それを知っている者は皆、あの池で次の獲物を待っている。伏せる