溜池の怪

 あなたはとある地域――仮に、××としよう。××へやってきたあなたは、目的地に行くために溜池のそばを通らねばならない。私は親切心から、あなたに忠告してあげようと思う。  溜池の近くを通るとき、あなたは決して、池を見てはならない。必ず、眼を逸らして歩くように。  けれど、ただ眼を逸らせばいいわけでもない。  わざとらしく顔を逸らしてもいけないし、急ぎ足で通り過ぎてもいけない。冷静を装って、池なんか気にならないようなふりをして、歩きすぎなければ行けない。  そうやって無関心を装っていても、池にいる《《あれ》》はきっと、あなたにアプローチをかけてくる。  視界の端で何かが動くのを、あなたは捉えるだろう。  子供が「あっ」と声を上げるのを聞くだろう。  どぼん、と何かが落ちる音を聞くだろう。  しかしそれでも、あなたは振り向いてはいけない。  溜池を見てはいけない。  あなたは聞こえなかったふりをして、見えなかったふりをして、歩き去らなくてはいけない。驚いて振り向いたり、恐怖に走りだしてはいけない。  言うことを聞かなければ、どうなるのか? さて、どうなるのやら。  それを知っている者は皆、あの池で次の獲物を待っている。