目次
※ 一部AIを使用して書きました。
出会い
日曜日のこと。引っ越してきたばかりの私は荷解きも終えて、退屈だった。だからお昼ご飯を食べ終えてから、一人で山に入った。 そしたら、迷った。当然だ。山なんて初めて入るし、一人で来たんだから。 そのせいで行きは見なかった川に出てしまった。帰り道はもちろんわからない。わからないなら、仕方ない。そう諦めて、わたしは川の中でせかせか歩く蟹を観察することにした。 蟹は横向きで歩いて、石の下に潜り込む。そこからまた別の蟹が出てくる。それを追いかけ、私も少しずつ移動していく。 どどどどど、と水が落ちる音が聞こえてきた。滝があるのかなぁと思っていたら、遠慮がちに襟を引っ張られた。
「落ちますよ」
涼やかな、穏やかな声だった。 振り向くと、月の光みたいな髪をしたお兄さんが立っていた。前髪を長く伸ばして、顔を半分隠してる。それは不気味に感じそうな見た目なのに、声があんまりにも優しいからか、そうは思わない。不気味というよりもむしろ、川の畔の、たおやかな柳の木みたいな雰囲気だった。
「お兄さん、柳の木みたい」 「柳?」 「静かで、きれいで、ちょっとさみしい」
お兄さん、ふっと小さく息を漏らした。笑ったらしい。
「立てますか?」
うなずきながら、立ち上がる。気づくとずいぶんな川縁に立っていた。もう少しで川に落ちそうだったところを、お兄さんは引き留めてくれたようだ。
「この辺りの蟹は性悪です。屍肉を食む楽を覚え、誑かす狩りを覚えました」
なるほど、私は蟹に誘われたらしい。ふしぎぃ、と思ってたらお兄さんも不思議そうな声で私に話しかけてきた。
「ほかに人の声がしませんが、一人で山に入ったんですか?」 「うん。それで帰り道がわからなくなっちゃったから、蟹を見てたの」
お兄さんはまた、ふ、と息を漏らした。
「剛気ですね」 「のんきって言われるよ」 「ああ、そうですね。そちらの方があなたを正しく表していそうです」 お兄さんは少しだけ笑ってから、川が流れる方向を指さした 「道が見える場所まで送りましょう。歩けますか?」 「手はつないでくれる?」 「私が怖くないのなら」
もちろん、怖くなんかない。手を差し出すと、お兄さんは遠慮がちに手を繋いでくれた。 そうして川に沿って歩きながら、私は「あれは何?」「これは?」と山のものを指さし尋ねる。引っ越してきたばかりの私には、山のものすべてが珍しかった。そんな私をお兄さんは鬱陶しがる様子もなく、丁寧に答えてくれる。 そのとき、風が吹き、お兄さんの髪がふわりと揺れた。お兄さんの前髪が浮き上がる。 私は、お兄さんの目を見てしまった。 お兄さんの目は、普通なら白い部分が夜の闇みたいに真っ黒。普通なら茶色だとか黒の部分は、お星様みたいな眩しい色をしている。 思わず見蕩れてしまった私は、気づけばため息交じりにお兄さんの目を褒めていた。
「お兄さんの目、きれいだね」
お兄さんはそれを嬉しがることなく、繋いでいた手を離し、慌てて目を隠してしまった。
「見てはいけませんよ」 「どうして?」 「知っているでしょう、山に住む《《オバケ》》のことは」
オバケの話なんて知らない。だって私はつい昨日、こっちに引っ越してきたばかりだもの。
「わかんない。わたし、引っ越してきたばっかりだから」 「そうですか。それなら、私が話しましょう」
お兄さんが話すのは、怖い怖いオバケの話だった。 オバケの目は、普通の生き物とは違う目をしている。 闇を煮詰めたような黒い眼球。 星の光を集めたような白い瞳。 星が瞬く夜の目は、その目を見た者の魂を吸い込み、自分の寿命に変えてしまう。 命を奪うオバケが、どうして人々に受け入れられよう? オバケは人々から嫌われ、山へ逃げ込んだ。
「だから、山に入ってはいけないんです」
気づけばせせらぎは聞こえなくなっていて、足下は均された土に変わっていた。人が歩く道まで出てきたらしい。見覚えのある道が見えた。家々が見えた。もう、一人で帰れる道だ。 私は山から一歩踏み出した。お兄さんは動かず、山の中に立ち尽くしている。 私はお兄さんを振り向き、お兄さんの元へ駆け戻った。
「お兄さん。わたしね、さと。さとちゃんでいいよ」
そう自己紹介して、私は手を差し出した。急に手を差し出され戸惑っただろう。お兄さんは首を傾げる。私はお兄さんの手を、勝手に握った。
「お兄さんはわたしを助けてくれたから、オバケじゃないよ。いい人だよ。だからもう、友達」
ね、と握った手をぶんぶんと振る。お兄さんはぽかんと口を開けて、それからまた小さく息を漏らした。
「友達なんて、初めてです」 「わたしも、ここで友達ができたの初めて。一緒だね」 「一緒ですね」
えへへと笑って、あっと気づく。
「お兄さん、お名前は?」
お友達なのに、お兄さんの名前はまだ聞いてない。これはとっても失礼だ。 私が尋ねると、お兄さんはちょっとためらった。でも私が「知りたい知りたい!」としつこく尋ねると、仕方なさそうに、でもどこか恐る恐る、名前を教えてくれた。
「|夜野《よるの》|瞬《またたき》です」
またたきさん。なんだかかっこいい名前だ。
「かっこいいね」
素直に褒めると、瞬さんはようやく顔に照れを見せた。 夕暮れの音楽が鳴る。どうやら私は随分長いこと山の中をさまよっていたらしい。帰らなきゃ、お母さんたちが心配する。
「またね、瞬さん」
そう言って背を向けると、瞬さんは「一人で山に来ちゃいけませんよ」と言った。けどそれは、聞こえないふりをしておいた。 家までの道を、たかたかと走る。引っ越し先で初めて友達ができた嬉しさ、その友達が優しかったことの安心感、そして不思議な力を持っていることへの興奮。それが私の足を軽くする。
「漫画みたい!」
興奮して思わず口にしてしまったわたしに、畑で働いていたらしい知らないおばあちゃんたちが「おかえりぃ」と声をかける。ただいまと返すのが正解なのか、こんにちはと返すのが正解なのか、まだわからない。とにかく興奮していたわたしは「ただいまぁ!」と返しながら、家まで一度も立ち止まらず走り続けた。
虫
学校帰りのことだった。瞬さんに会いたくて、山に入った。だけどこの日はなかなか会えなかった。
「瞬さん、ほんとにオバケなのかなぁ」
転校した日、私は学校でオバケの話を聞いてみた。みんなオバケの話は知らなかったけれど、山に住んでる怖い人の話はしてくれた。
「山に住んでるの、おじいちゃんが子供の頃からずーっと同じ人らしいよ」 「年取ってないってばーちゃんも言ってた」 「きゅーけつきなんじゃない?」 「こわぁい!」
瞬さんが吸血鬼なら、昼間は出てこられないはず。それに瞬さんは私の血を吸おうとしなかった。長生きなんじゃなくて、あの目が印象に残るから同じ人に思えるんじゃないかなぁ……なんて考えながら、私は山中をぶらぶらと歩いた。 歩いていて、私は足下に不思議な虫がいるのに気づいた。その虫の不思議なところは模様だ。かたつむりのように渦を巻いている。けれどもちろんかたつむりじゃなくて、例えるならコガネムシのような虫。背中の渦巻き模様は動いていて、絶えず変化してる気がする。 私は「変なの」と呟き、しゃがみ込んだ。 虫を見つめる。ぐるぐる回る。虫を見つめる。ぐるぐる回ってる。虫を見つめる。色が段々変わってく。むしろ見つめる。どんどんどんどん、虫が大きくなっていく。 違う。 私が小さくなっていってる。
「きみは、かわいいねぇ」
虫が話した。小さな体に似合う、可愛い声だった。だけど何だか、怖かった。
「かわいいねぇ。いいこだねぇ。いっしょにおやまでくらそうねぇ」
怖いのに、嫌なのに、虫から目を逸らせない。ぐるぐる、ぐるぐると模様が回る。回るたび、体が縮んでいく。私を置いて、世界が大きくなっていく。
「いけませんよ」
聞こえたのは瞬さんの声。安心すると同時に、何も見えなくなった。いや、見えないわけじゃない。辺りが夜になっているせいだ。お陰で虫の模様が見えない。虫の残念そうな声だけが聞こえてきた。
「よるは、だめだねぇ。よるは、すいこまれちゃうねぇ」
ざんねん、ざんねんと、繰り返しながら声が遠ざかる。 気がつくと辺りは夜から昼に戻っていて、体も元の大きさに戻っていた。しゃがみ込んだ姿勢も、変わらない。 顔を上げると、瞬さんが髪で顔を隠すところだった。
「顔、隠さなくていいのに」 「だめです」
それは二重の意味でのお叱りだった。
「山はオバケ以外にも怖いものがいるんです。一人で来てはいけませんよ」 「でも……そしたら瞬さんが助けてくれるもん」 「私がいないこともあります」 「どうして?」
私が唇を尖らせ尋ねると、瞬さんはなぜだか言い淀んだ。
「私も、仕事がありますから」 「お仕事ってなぁに?」 「教えません」 「いじわる」 「意地悪で結構。さあ、帰りましょう。日が暮れますよ」
瞬さんに手を差し出されると、反射的に繋いでしまう。そのまま歩き出されれば、ついつい一緒に歩いてしまう。 そうして私は、瞬さんと一緒に山を下りることになった。
「瞬さんと遊びたかったのに」 「学校でお友達はできませんでしたか?」 「できたよ。でも瞬さんとも遊びたい」 「山に入るのは感心しませんね」 「ねえねえ、瞬さんちってどこ?」 「あなたの足ではまだ登れない場所です」 「もうちょっと大きくなったら行ける?」 「もうちょっと、では足りないと思いますよ」 「もっと大きくならないとだめ? 中学生くらい?」 「そうですね。そのくらいでしょうか」
話してるうちに、歩道が見えてきた。私が道に一歩踏み出しても、瞬さんは山から出ようとしない。それが何だかさみしくて、私はぷぅと頬を膨らませた。
「また来るからね」 「一人はだめです」 「瞬さんと遊ぶもん」 「……それなら」
さっきまで繋いでいた手には、何も持っていなかった、なのに瞬さんが差し出した手には、きらきら光る金平糖みたいな石がころころと転がっていた。
「前日までに、これに時間を伝えて山へ飛ばしてください」 「どうやって?」 「窓から放れば、自然に私の元まで飛びます」 「ふしぎ」
私はそれを受け取り、空に向けて透かした。綺麗な石だった。星の欠片みたいに光ってる。 私の様子を見て、瞬さんはちょっと困ってる雰囲気だった。その雰囲気に、私は我に返りしょんぼりした。
「瞬さん、大人だもんね。わたし子供だから、一緒に遊ぶなんて、つまんないよね」 「いえ、そんな」
瞬さんは慌てて手を振り、「ただ……」と声を落とした。
「あなたが、私といることで排斥されやしないかと心配で」 「はいせきってなぁに?」 「村八分……仲間はずれにされないかと不安なんですよ」 「大丈夫だよ」
私は「えっへん!」と胸を張った。
「一人で遊ぶのも好きだし、瞬さんがいるもん」
瞬さんは、まだ困った雰囲気だ。前髪で顔が見えなくても、不思議とよくわかる。瞬さんは「そうですね」と呟いた。
「時代は流れゆくものですものね。あなたはきっと、平気なんでしょう」 「そうだよ、平気なの。だからまた来るね」
今度はちゃんと、このお手紙を出してから! そう約束すると、瞬さんは微笑んだ。
「それなら……また、今度」 「うん! またね、瞬さん」
手を振り合って家路を走る。 瞬さんからもらった、不思議な石。これが瞬さんへのお手紙になるなんて、不思議だ。早くお手紙として使ってみたい。今日の夜には出しちゃおうかな。でも何して遊ぼう。ちゃんと遊びを決めてからにしようか。でないとまた、すぐ帰らされることになっちゃうかもしれないし。
「何して遊ぼうかなぁ。瞬さん、どんな遊びなら遊んでくれるかなぁ」
わくわくして、笑いがこみ上げてくる。こみ上げた笑いを我慢できず、ふふっと声を漏らす。 家路を走る足は出会ったときと同じく、風のように軽かった。
星
その日私は、瞬さんの星のような目を思い出して、図書室へ行った。瞬さんの目がどの星に似てるか知りたかったから、星の本を読もうと思ったからだ。 一番たくさん星が載ってそうな、分厚い本を取り出す。椅子に座って、机に本を置いて、ぱらぱらとめくる。 宇宙は宇宙の卵が破裂してできたらしい。ふーん、ふーん、不思議だなぁ。 宇宙にはたくさん星があって、名前もついているらしい。瞬さんの目はどの星に似てるだろう。こっちかな、あっちかな、それともこれかな、あれかな? うーん、たくさんありすぎて悩んじゃう。
「決めた、この本借りちゃお!」
私は分厚い本を持って、図書室の先生に貸し出しをお願いした。そしてその本を、家に持って帰った。 自分の部屋で本を広げる。どの星を見ても、瞬さんの目の|瞬《またた》きには足りない気がする。
「あ、そうだ!」
私は閃いた。大事に仕舞っておいた瞬さんからもらった不思議な石に、遊びに行きたい日とその目的を言う。
「明日宇宙の本を持って行くから、瞬さんの目の星がどの星か一緒に見よ!」
そうして、窓から石を放った。石は弧を描いたけれど、地面に落ちたりしなかった。流れ星のように、まっすぐお山へ向かっていった。 そして、次の日。 学校帰りにお山の前に行くと、瞬さんが木々の暗がりの間に立っていた。月の光みたいな髪は、暗がりの中で本当のお月様みたいだ。
「瞬さん!」
駆け寄れば瞬さんは、すっと手を差し出してくれる。
「星の本を借りたそうですね」 「うん、借りたよ。一緒に見ようよ」 「では休憩所で見ましょう」
休憩所とは、山をちょっと登ったところにある登山用の休憩所のことだ。東屋があって椅子と机がある、ちょっといい感じの場所だ。そこの机に本を広げて、宇宙の成り立ちを説明するページを読む。
「これすごいよね。割れて広がったって、どんな感じなんだろう?」 「見たいですか?」 「見れるの?」 「見れますよ、もちろん」
瞬さんは何でもないように言って、何もないはずの空中から萎んだ風船を一つ取り出した。
「よく見ててくださいね」
そう言って瞬さんは、風船を膨らませる。見る見るうちに、風船は夜で満たされた。
「どうぞ、割ってみてください」
瞬さんに促され、私は急いで木の枝を拾ってきた。
「ほんとに割っていいの?」 「いいですよ、もちろん。さあ」
私は意を決し、「えい!」と風船を突き刺した。ぱん、と軽い音を立てて、風船は弾けた。 その瞬間、星が辺りに散らばってく。星と一緒に、夜が新たに広がっていく。 あまりに幻想的なその光景に声も出ない私に、瞬さんはにこりと微笑んだ。
「さとさんの手で、今新たな宇宙が生まれましたよ」 「うっそだぁ」 「ほんとですよ。さぁ、暗くなったから帰りましょう」
私は「えーっ!」と不満を露わにした。
「暗くしたの、瞬さんなのに! まだ来たばっかりだよ、帰りたくない」 「だめです。暗い山は危険ですよ」
ぶーぶー拗ねていても、瞬さんに手を差し出されるとその手を握りたくなる。私は渋々といった顔を作りながら、瞬さんと手を繋いで山を下りた。本当は、瞬さんと手を繋げてすごく嬉しい。だけど瞬さんと長く一緒にいられなかったのは残念だった。 それから、次の日。 私は朝のニュースで、新しい宇宙を発見したと言われるのを聞いた。今あるこの宇宙の中に、さらに新たな宇宙ができた。これは世紀の発見だ、と学者たちが大騒ぎしている。 私は瞬さんの昨日の言葉を思い出した。 『さとさんの手で、今新たな宇宙が生まれましたよ』 まさかね、まさかね。 ……まさか、ね?
夜空
瞬さんからもらった石と夜空を眺めていて、私はふと考えた。
「夜空を歩いてみたいな」
不思議なことができる瞬さんなら、夜空も一緒に歩いてくれるかもしれない。私は石に瞬さんへのお願いを吹き込んだ。
「瞬さん、今度一緒に夜空を歩かせて」
そして、いつかのように瞬さんのいる山へ金平糖のような石を放る。石は同じように、流れ星のようにまっすぐお山へ向かって飛んでいった。 その日の夜だ。夢の中に瞬さんが出てきたのは。 瞬さんはふよふよ浮いていて、窓の外から私を手招く。
「少しの間なら、夜を歩かせてあげられます。来ますか?」 「行く!」
窓を大きく開けて、えいっと瞬さんの胸に飛び込む。瞬さんは細いのに、しっかりと私をキャッチしてくれた。 それから私は瞬さんと手を繋いで、夜空を散歩した。 夜空はとても綺麗だった。星に触れられるし、お月様にぶら下がってシーソーのように遊ぶこともできた。 でも何より一番良かったのは、瞬さんが目を隠さないことだ。
「瞬さん、どうして目を隠さないの? もういいの? これからずっとそうしてくれる?」 「いえ。ここでだから、目を隠さなくてもいいんです」 「そうなんだ。じゃあずっとここにいようよ」 「それはいけません。あなたは普通の子なんですから」
普通の子、なんて言われると、瞬さんに特別扱いされてないみたいでつまらない。私はつい唇を尖らせ拗ねてしまったけれど、瞬さんに誘われ天の川を歩いたら不機嫌なんて吹き飛んでしまった。
「わぁ、ほんとの川みたい!」 「楽しいですか?」 「すっごく!」 「それはよかった」
そこで、目が覚めた。 窓の外に瞬さんはいない。だってあれは、夢だから。
「当たり前だよね。夜空を歩くなんて、できるわけないよ……」
しょんぼりしながら、気づけばぎゅっと握りしめていた手を開く。 そこにはころんと、瞬さんがくれた石よりも大きな石があった。
「星の欠片だ」
思わず呟く。これは星の欠片だ。間違いない。昨日の夢は、夢じゃなかったんだ! 私は飛び起き、朝早い時間だというのにもかかわらず瞬さんのいる山へ走った。
「瞬さん、瞬さん!」
瞬さんは待ち構えていたかのようにそこにいた。仕方ないなと言いたげな、呆れたような、でも少し嬉しそうな、得意げでもあるそんな顔。 私が「あのねあのね」と言いかけると、瞬さんは「しぃ」と人差し指を立てて静かにするようジェスチャーで示した。私が黙ると、瞬さんは内緒話でもするように屈んでくれた。
「それは誰にも、内緒ですよ」
瞬さんの顔を見ると、いたずらっぽく笑っている。私は自分の顔が熱くなるのと同時に、胸の中で小さな宇宙がぽん! と音を立てて弾けるのを聞いた。