木のうろには悪魔が棲みついています。木のうろに棲む悪魔は、願えば子供を授けてくれます。しかし悪魔に授けられた子供は、どうしても長生きできません。まだまだ子供のうちに早死にすることは誰もが知っていますが、それでも、悪魔に願わずにいられないのです。悪魔に授けられ、そして早死にした子供は、木のうろを棺に見立てて葬儀しなくてはいけません。そうしないと、子供を願った人は二度と子供を授かれないのです。 ある年、双子を死産したお母さんがいました。何年も子供が授かれず、悪魔ではなく、神様にお祈りして縋りついて、ようやく授かった子供たちでした。けれど、双子たちは元気な産声を聞かせてはくれませんでした。産婆もお父さんも、お母さんのそのまたお母さんやお父さんも大変悲しみましたが、産声を上げなかった二人の子供を神様の元へ返そうとしました。お母さんだけが、それを反対しました。産後の肥立ちも良くないのに、真夜中にベッドから抜け出したお母さんは、動かない双子を抱えて悪魔が棲む木へと走りました。
「私の双子ちゃんを返して!」
真っ暗闇の中、お母さんの悲痛な声が響き渡ります。梟の鳴き声すら聞こえない夜の闇は、お母さんの肩に重くのしかかります。木のうろから、はぁあ、と長いため息が聞こえました。
「おれが奪ったんじゃあない」
木のうろから、悪魔がぬるりと顔を見せました。
「だが、まあいい。お前に双子を授けてやろう。ただし十年の間だけだ。二人が十になったら、おれの元へ返すのだ」
悪魔が言い終えるや否や、真っ青だった双子の顔に赤みが差し、ぴくりとも動かなかった体はもぞもぞと動き出しました。元気な泣き声が、空腹を訴えます。お母さんは滝のような涙を流して喜び、双子ちゃんに頬ずりし、飛ぶように家へ帰りました。お父さんも生き返った双子ちゃんを腕に抱き、しとどに顔を濡らして喜びました。 死んで生まれた双子ちゃんたちは、玉のように可愛らしい双子くんたちに成長した。しかし双子くんたちが成長するにつれ、母親はやつれていきます。二人は母親の両脇にぴったり寄り添い、心配そうに尋ねました。
「どうしたの、おっかさん」 「どこか具合でも悪いの?」
ちっとも区別がつかない双子くんたちは、二人そろって眉を八の字にして、お母さんの体を心配します。優しい双子くんたちの顔を何度も見比べると、お母さんは二人を抱きしめ、わっと泣きだしました。泣いたお母さんは、二人が死産だったこと、悪魔に生き返らせてもらったことを話しました。もちろん、十になったら二人が悪魔の元へ返されてしまうことも。それを聞いて、双子くんたちは自分たちの胸をどんと叩きました。
「なんだぁ。そんなの、僕らにお任せよ」 「大丈夫、死にゃあしないさ」
双子くんたちはお母さんの服を借りると、女の子の格好に着替えました。そしてそれぞれの手に篭を持って、お兄さんはトンカチを、弟は長い縄を篭の底へ忍ばせました。二人はそのまま歌いながら家を出て、悪魔が棲みつく木のそばまで歩いて行きました。 悪魔が棲まう木は、川のそばにあります。時間はちょうどお昼時。悪魔は、川のせせらぎを子守歌にまどろんでいるところでした。双子くんたちは悪魔の木に背を向けると、大きな声で世間話を始めました。
「ねえ奥さん、聞きまして?」 「ええ奥さん、聞きましたわ」 「あすこの双子ちゃん、十になると死んじゃうんですって」 「もうすぐ十になるのに、可哀想ね。いったい、どうして死ぬのかしら?」 「そんなの、悪魔にだってわかんないわ!」
聞くでもなく世間話に耳を傾けていた悪魔は、自分の名前が出たこと、そして馬鹿にされたことが頭にきて、木のうろからにゅうっと頭を突き出しました。
「双子は、川で溺れて死んじまうのさぁ!」 「あらそう!」
悪魔の返事に、双子くんたちは振り向きもしません。そのまま背を向けて、世間話を続けます。
「それがわかっていようと、悪魔じゃあ双子くんが助かる方法まではわからないでしょうね」 「神様だって、きっと無理よ。それなのに悪魔がわかるわけないわ!」
また頭にきた悪魔は、木のうろから胸まで乗り出して、双子くんたちが死なずに済む方法を答えました。
「溺れ死にたくなかったら、川に近づかなきゃいいのさ!」 「あらそう!」
双子くんたちはまだ、悪魔を振り向きません。
「そんなの、いつまで近づかなきゃいいかわからなければ、意味ないわ」 「そうよねぇ。だって、水汲みだとかお買い物だとか、川に近づかなきゃ生活できないもの」 「やっぱり悪魔じゃ、ここらが限界ね」
頭に血の上った悪魔は、木のうろから臍まで乗り出しました。身を乗り出しすぎた悪魔は、どたんと木のうろから落っこちてしまいました。落っこちた悪魔は腰をさすりながら、双子くんたちがいつまで川に近づかなければいいか答えます。
「十を過ぎれば溺れ死にはしない。何せ、十になる日に、おれの元へ返してもらうんだからな」
悪魔の答えを聞いた瞬間、双子くんたちはくるりと振り向き、お兄さんがトンカチで悪魔の頭をぽかんと殴り、弟がロープで縛り上げました。頭を殴られ目を回す悪魔を、双子たちはえっさほいさと担ぎ上げます。
「それじゃあお前が、僕らの代わりに溺れ死ね!」
担ぎ上げられた悪魔は、そのまま川へ放り込まれました。縛り上げられた悪魔は自分で縄を解けず、そのままぶくぶく沈んでいきます。悪魔が浮かび上がってくることは、終ぞありませんでした。 悪魔がいなくなって、返す必要のなくなった可愛い可愛い双子くんたちは、しわくちゃのおじいちゃんになるまで長生きしましたとさ!