つがい

 十歳の秋のこと。  帰宅した私は、重い門扉を押し開けた。すると庭に白い生き物が座っているのが見えた。大きさは仔犬くらい。遠目からは犬に見える。でも近づくにつれて狐にも見えてきたし、もっと近づくと熊のようにも思えてくる。庭にいるのが何の動物かわからないけど、金色の目がくりくりして可愛いのは確か。  お父さんから「野良の動物に無闇に近づいちゃいけないよ」と言われていたから、白い生き物を少し迂回して庭を横切る。生き物は私をじーっと見るだけで、逃げたり追いかけたり、ましてや吠えたりなんてしなかった。  今日はお母さんが婦人会の寄り合いに出かけてる日。私は自分で鍵を開け、生き物が庭に座ってるのを確かめて家に入った。背負っていた鞄を放り出し、手を洗うとすぐさま冷蔵庫を開けた。動物にあげても良さそうなものを探すためだ。ごそごそ物色して、ソーセージの袋を抱え外に出た。  生き物は、庭にいた。大人しく座ってる。生き物にゆっくり近づく。丸い目をきょとんとさせて、生き物は私を見つめていた。

「これ、食べる?」

 しゃがみ込み、パッケージを剥いてソーセージを差し出した。生き物は警戒する様子もなく鼻先を近づけると、ふんふんと匂いを確かめる。気に入ったようで、ぱくりとソーセージに噛みついた。手を噛まれないよう、慌てて手を離す。生き物は私が怖がってることなんてお構いなしに、ソーセージをもぐもぐと食べていた。  食べ終わっても生き物は大人しかった。私に近づいたりせず、けれど物欲しそうに鼻を鳴らす。私はもう一本、ソーセージのパッケージを剥いだ。生き物が食べ終えるとまた一本。そうしていくうちに袋は空っぽになった。生き物は満腹になって、ころんと地面に転がった。お腹を見せ、満足そうに目を細めている。

 ――犬がお腹を見せてるとき、触っても良かったはず。たぶん、お父さんが言ってた。この子は犬っぽいし、触っても大丈夫。うん、ぜったい大丈夫。

 そう思っておそるおそる手を伸ばした瞬間、門扉が開く音がした。耳慣れた声が「雪枝?」と私を呼ぶ。お母さんが帰ってきた。慌てて立ち上がり、ソーセージの袋を後ろに隠す。けど、遅かった。お母さんの目は私が隠したものをちゃんと見ていた。私の前に立ったお母さんは両手を腰に当て、「隠したものを出しなさい」と怖い顔をする。渋々袋を見せると、お母さんの目がきゅっと吊り上がった。

「空っぽにしちゃったの? 夕飯前なのに!」 「ごめんなさい」

 食べたのは私じゃないけど、私が食べたことにしておいた。あの生き物にあげたといえばお母さんは生き物を追い出すと思ったからだ。当の|本獣《ほんにん》はというと、ほんの数秒前までここにいたのに、私が怒られてる隙にどこかへ消えてしまった。ちょこんと座っていた場所にはソーセージのかけらすら残ってない。私が怒られてる最中にほかのことを考えてると察したお母さんは、「怒られてる最中に余所見しないの!」とまたさらに怒った。  しゅんとしょげてる私にお母さんは「宿題は?」と重ねて尋ねる。正直に「まだ」と答えると、お母さんは大きなため息をついた。

「さっさと宿題をしてきなさい。それと、もう今日はお外に出ちゃいけません」

 遊びに行っちゃダメと言われたのは不満だったけど、素直にうなずいた方がいいのはわかってた。「はぁい」と返事をして家に入った。お母さんも一緒に中に入る。ドアを閉めるとき、もう一度庭を振り返った。あの白いふわふわの塊は、やっぱりどこにもいなかった。

 夜、雨戸を閉める前にもう一度庭を見渡した。生き物は帰ってこなかった。

 翌朝、新聞を取りに外へ出た。あくびをしながら庭を横切ろうとすると、昨日と同じところに白い生き物が見えた。わぁ、と私が喜ぶ前に、生き物は私を「ゆきえ」と呼んだ。幼い口調は小さい体によく似合っていた。  生き物が喋ったことに驚いた私は、ちんまり座っている生き物に駆け寄った。

「あなた、しゃべれるの?」

 家にいるお母さんたちには聞こえないと思うけど、一応、声はひそめた。しゃがんで目の高さを合わせる私に嫌な顔もせず、生き物は小さな頭を縦に振った。

「おれは、ゆきえとだけはなす。ゆきえは、きのう、おれのこと、はなさなかったな。おれはここにすみたい。おれ、ここにいてもいいか?」

 答えは「いいよ」に決まってる。でも、私は一つ心配だった。

「住んでもいいけど、お母さんたちに見つからないでね。きっとバケツに入れて捨てられちゃうから」

 生き物はふすんと鼻を鳴らし、「だいじょうぶだ」と小さな胸を張る。

「おれにさわっていいのは、ゆきえだけだ。おれにさわったら、かんでやる」

 生き物の言葉に私は「噛んじゃだめ!」と思わず大きな声を出してしまった。自分で自分の口を塞ぎ、家から誰も出てこないか確かめる。家からも、通りがかった誰かが庭を覗き込むこともなかった。  ホッと息を吐きながら、生き物に「噛むのはだめ」と言い聞かせる。

「噛んじゃだめだよ。そういうことするとね、保健所に連れてかれちゃうの。人を噛んだ犬は殺されちゃうんだって。お父さんが言ってた」 「おれはいぬじゃない」

 生き物はちょっと不満そうだったけど、「ゆきえがいうなら」とうなずいてくれた。よかった。これで保健所に連れてかれなくて済む。  生き物ともっとお話ししたかったけど、私は今日も学校に行かなきゃいけない。生き物のふわふわした背中を撫でて、私は「じゃあね」と立ち上がった。

「お弁当のおかず、残しといてあげるね。帰ったら食べさせてあげる」

 食べさせてあげる、が生き物には不満だったようだ。むぅと拗ねた雰囲気を醸し、生き物は「じぶんのたべるものくらい、じぶんでとってこれる」と私を見上げた。そっか、と私は納得した。こんなにちっちゃくても、野生の生き物は自分でご飯を取ってくるんだ。えらいなぁと思って、もう一度生き物――|雪《ユキ》を撫でた。

「だったら、おやつだね。私のお弁当、おやつに食べてね、|雪《ユキ》」 「ゆき?」

 そう、|雪《ユキ》。この子の名前は|雪《ユキ》だ。

「あなた、真っ白だもの。山に積もった雪みたい。だから、|雪《ユキ》。私の名前もね、枝が折れそうなくらい雪が積もった日に生まれたから、雪の枝でゆきえなの。お揃いだよ、|雪《ユキ》」

 |雪《ユキ》はぱったぱったと尻尾を振った。心なしか、目も嬉しそうに細くなってる気がする。|雪《ユキ》は何度も「そうか」とうなずいた 「じゃあ、おれはゆきだ。おまえだけの、ゆきだ」

 頭をぐいと私の手に押しつけ、|雪《ユキ》はそう言った。私だけの|雪《ユキ》。何だか、胸がくすぐったい。照れくさくなった私はもう一度だけ|雪《ユキ》を撫でると、パッと手を離した。

「お母さんたちに見つからないでね、|雪《ユキ》。帰ったら遊ぼう」

 |雪《ユキ》は「おう」とうなずいた。おじさんみたいな返事だけれど、|雪《ユキ》の声だと可愛らしく感じるから不思議だ。新しい友達ができたことを喜びながら、私は新聞受けから新聞を抜き取り、家に駆け戻った。  さて、見つからないでねと雪に言ったのは私なのに、私は|雪《ユキ》を隠す努力をしなかった。正しくは、|雪《ユキ》と遊ぶのが楽しくて、お父さんやお母さんの気配に気づかなかった。|雪《ユキ》が私を噛んだりしないことは理解してもらえたけど、二人は私が|雪《ユキ》と遊ぶことにいい顔をしない。

「狐だったら病気を持ってるかもしれないんだよ」 「|雪《ユキ》は狐じゃないもん」 「犬なら狂犬病を持ってるかもしれないでしょ」 「犬でもないもん」 「じゃあ何の動物なんだ?」 「わかんない」

 私の返事に、二人は困った顔をしていた。  |雪《ユキ》は私が二人に怒られてるのを見てから、私が一人で家にいるときにしか来なくなった。|雪《ユキ》が家に来ないなら、私が|雪《ユキ》に会いに行けばいい。そう考えた私は、学校から帰ると鞄を置いてすぐさま外へ飛び出すようになった。  私たちは庭から出て、周りの野山で駆け回った。いくつもの田んぼを越え、広い原っぱで遊ぶ。夕焼けが|雪《ユキ》の真っ白な毛を橙に染めるまで、私たちは息を切らせて走り回った。けれど夕日の橙が私の足を止めさせる。夕日を受けた木々の影の、何と黒いことか。不安を紛らわせるように「帰ろう」と言って|雪《ユキ》を抱き上げた。|雪《ユキ》はまだ遊び足りないとじたばたもがく。

「まだだ。まだあかるい。おれのめは、くらくなったってよくみえるぞ。ゆきえをちゃんといえまでおくってやれるぞ」 「だめだよ。ほんとはここで遊んじゃいけないんだもん。見つかったらまた怒られちゃう」 「どうして」

 |雪《ユキ》は人間じゃないから、知らなくて当然だ。|雪《ユキ》を抱いて歩きながら、私はこの原っぱの近くに住む〝人食いの獣〟の話をした。

「夜になったら、人食いの獣が出るんだよ。だからここで遊んじゃいけないの。遊んでも、夕日が沈むまでに家に帰らなきゃ」 「だいじょうぶだ。ゆきえはたべない」 「そんなのわかんないよ。|雪《ユキ》も食べられちゃうかもしれないよ。だから暗くなる前におうちに帰ろうね」 「ゆきえがいうなら、そうしよう」

 |雪《ユキ》は不満そうだったけど、私が言えば大概のことは受け入れてくれた。私たちはたくさん遊んだ。中学生になっても、私と|雪《ユキ》の交流は続いた。

***

 それは中学生になった秋のことだった。

「大きくなったなぁ、雪枝ぇ」

 |雪《ユキ》のところへ遊びに行こうとした私は、伯父に捕まってしまった。普段猟師として山に籠もっている伯父は、気まぐれに村へ下りてきては父に酒をねだる。断れば暴れる。父も母も、私も、それをわかっているから逆らえない。  すれ違おうとした私の手を掴み、伯父は何度も手を撫でながら私を居間へ引きずり込んだ。

「ますます|母親《あいつ》に似てきたなぁ。髪をもっと伸ばせ。そうすればそっくりだ」

 伯父が私を触る手の動きは気持ち悪い。やたら髪を撫で、手を触る。伯父は私を隣に座らせ無理やり酌をさせようとした。父と母がさりげなく私を退出させようとしてくれたけれど伯父は決して私を離さなかった。  散々酒を飲んで、一人だけ楽しんで、とっぷり日が暮れた頃。満足した伯父は、ようやく山へ帰っていった。私たち三人は疲れ果て、食事を取る気分にもなれない。父が瓶を片付け、母が皿や食器を洗う。風呂に入れと言われた私が雨戸を閉めようと庭へ出ると、|雪《ユキ》がいた。いつもの位置でお行儀良く座っている。父も母もこちらに来ないのを確かめ、私は|雪《ユキ》に近づいた。「ゆきえ」と可愛らしい声が私の名前を呼ぶ。伯父の声によって汚された名前が、|雪《ユキ》に清められていくように感じられた。  |雪《ユキ》を撫で、私は伯父のことを話した。|雪《ユキ》はふんふんとうなずき、首を傾げた。

「ゆきえ。あいつ、いなくなってもいいか?」

 あいつとは伯父のことだろう。私は考えるまでもなく首を縦に振った。|雪《ユキ》は「そうか」とうなずくと、するりと私の手を抜け、庭を出て行った。  翌日、翌々日。遊ぼうと|雪《ユキ》を待っていたけれど、|雪《ユキ》は現れなかった。待てど暮らせど|雪《ユキ》は来ない。それからさらに数日が過ぎたある日のこと。伯父の猟師仲間が血相を変えてうちにやってきた。彼らは伯父と、大猪を獲るだとか何とかで約束をしていたそうだ。しかし約束の時間になっても伯父が来ないので、また飲んだくれているのかと山小屋まで迎えに行った。すると小屋から妙に濃い血のにおいがする。まさかと思い小屋を覗いた彼らは、思わず鼻と口を覆ったそうだ。

 小屋の中では、内臓を食い散らかされた伯父が転がっていた。

 死んでいるのは明らかだった。伯父の死に顔は苦悶に歪んでいたらしい。生きたまま食われたのだろう、と猟師仲間は言った。彼らは気の毒がるが、私も、父と母も、正直に言えばとても晴れやかな気分だった。ああ、厄介者がいなくなった。そう安堵していた。  厄介者とはいえ、伯父は伯父だ。伯父は独り身だし祖父母はすでに他界している。喪主は父だった。諸々の手続きや連絡を取り忙しく動き回っていると、|雪《ユキ》が来た。真っ白な毛を赤茶けた色に染め、満足そうな顔でやってきた。心なしか、体が一回り大きくなっている気がする。父も母も|雪《ユキ》に気づいた。私を含め、三人とも|雪《ユキ》の毛が何に染まっているか感づいた。けれど皆、伯父が疎ましかったのは同じだった。|雪《ユキ》を見るのをやめ、父が言った。

「ずいぶん汚れてるから、洗ってやりなさい」

 |雪《ユキ》が庭に住むことを許された瞬間だった。私は大喜びで|雪《ユキ》を洗う準備をした。洗面器にお湯を張り、こぼさないよう注意して急ぎ足で庭へ行く。|雪《ユキ》は定位置で待っていた。可愛らしく座る|雪《ユキ》の体を丁寧に洗った。そこで私はふと気づく。真っ白な尻尾が、二本になっていた。

「|雪《ユキ》、あなた尻尾が二本ある」

 尻尾を持ち上げ驚く私に、|雪《ユキ》は「そうだ」とうなずいた。

「俺のしっぽは二本になった。まだまだふえるぞ。くふふふふ」

 |雪《ユキ》は無邪気に笑った。その意味を、私は数年かけて理解した。  伯父の葬儀以来、私の周りで男の死が増えた。私と親しくなろうとした男が死んでいく。男が死ぬたび、|雪《ユキ》の体が大きくなっていく。|雪《ユキ》の尻尾が増えていく。|雪《ユキ》の話しぶりが流暢になっていく。高校の担任が死んだ頃には、|雪《ユキ》の体は熊ほどに大きくなっていた。  陽だまりの下、|雪《ユキ》が庭で寝そべっている。私は|雪《ユキ》の毛皮に埋もれて笑う。

「私には、|雪《ユキ》がいればいい。|雪《ユキ》だけでいい。|雪《ユキ》以外いらない」 「そうとも。お前には俺だけいればいい。俺以外、お前には必要ない」

 もう|雪《ユキ》は仔犬ではない。小さな可愛い|雪《ユキ》はいない。|雪《ユキ》の唸るような低い声は、耳に心地よかった。私たちは鼻先をぶつけ合い、二人でくすくすと笑った。

***

 さらに数年が過ぎ、私が大学生になった頃のこと。  自転車にまたがり家を出ようとする私に、|雪《ユキ》が寂しげに顔を押しつけた。

「雪枝。だいがくというところには、まだ通わないといけないのか」 「人間社会は学歴が必要なのよ。お金というものがないとね、人間は生きていけないの」

 そう言って頭を撫でてあげると、|雪《ユキ》はのどをごろごろ鳴らしながら器用に話す。

「お前もこちらに来ればいい。そうすれば、そんなところへ行かなくていい」 「人は人を食べると病気になるから無理よ。私は私のまま、|雪《ユキ》といるわ」

 大学を出ても地元に残るつもりだ。|雪《ユキ》を置いて遠くへ行こうなんて考えたこともない。私はこのまま、私が老いて死ぬまで、|雪《ユキ》と暮らすつもりでいた。  家と大学を往復し、時折紹介されたアルバイトに励む。それ以外は|雪《ユキ》とじゃれ合って過ごしていた。それで十分幸せだった。私がそうして過ごすことを、父と母がどう思っていたかは知らない。二人は私たちを無理に引き離そうとはしなかった。  けれど、私たちを放っておいてくれない人は少なくなかった。  ある日、父と母が二人そろって出かけた。その隙を狙うように叔母がやってきた。伯父も厄介な人だったが、叔母も負けじと厄介だ。一体何用かと問えば、私に見合いを持ってきたと言う。つんと澄まし顔の叔母は、どうぞと言ってもいないのにずかずかと客間に上がった。客間は、庭に面している。ガラス障子は閉じているが、庭にいる|雪《ユキ》からも、中にいる叔母からも、互いがよく見えているだろう。  お茶を出さない訳にもいかず、私はお茶とお菓子を出した。叔母はそれを一口飲んで、私にと持ってきた写真を広げた。何とも癖の強そうな男性がそこにいた。叔母は得意げな顔で「そろそろいいご縁があってもいい頃でしょう」と言う。

「あなたに見合う相手を見繕ってきてあげたのよ。来週の日曜はきれいな格好をして待ってなさい。私とうちの人で迎えに来るから」

 ぐるる、と庭にいる|雪《ユキ》が唸った。叔母がちらと|雪《ユキ》に顔を向ける。|雪《ユキ》は障子に鼻先がつくほど近づいていた。叔母は汚いものでも見るような目で、私の|雪《ユキ》を見た。

「こんな犬だか狐だかわからない動物にばっかり構って……。それでも顔だけは義姉さんに似たからねぇ。大人しくて顔さえ良ければいいって人はたくさんいるのよ」

 ほほほ、と高い声で叔母が笑う。私は黙って庭に面したガラス障子を開けた。とん、と|雪《ユキ》が広縁に上がる。これだけ大きな体なのに、足音は小さい。私の隣に立ち、|雪《ユキ》は言う。

「女を食べるのは初めてだ」 「それは妬けちゃう」 「き、狐が喋っ――」

 叔母の最期の言葉を聞いてやるつもりはなかった。大きく口を開けた叔母の喉笛に、|雪《ユキ》が耳まで裂けたかと思うほど大きく口を開けて噛みつく。見る間に血が溢れ、叔母は自らの血でがぼがぼと溺れる。  血の一滴も残さず、|雪《ユキ》は叔母を胃袋に納めた。  |雪《ユキ》の汚れた口元を濡れタオルで拭く。|雪《ユキ》はもっと構ってほしそうだったけれど、先に部屋の換気をしなくっちゃ。風の通りが良くなるよう窓を開けて回って、忘れないうちに叔母の靴を回収する。ひとまず、私の部屋に隠しておこう。  お腹いっぱいになった|雪《ユキ》は庭にごろんと寝そべっていた。片付けを終えて、私も濡れ縁に腰掛け一休みする。ごろんごろんと転がる|雪《ユキ》が、私を庭へ誘う。しょうがないなぁと苦笑して、私も庭に下りた。  |雪《ユキ》とじゃれ合いどれほどの時間が過ぎたか。帰宅した父と母が庭で転がり回る私たちを見て、「年相応の振る舞いをしなさい」とため息をついた。呆れ顔で父はさっさと家に入っていったけれど、母は足を止めた。じっと|雪《ユキ》を見て、感じた違和の正体を突き止める。

「あら……また尻尾が増えてる」

 母は声に出したことを悔やむように口元を手で押さえた。私たちから目を逸らし、そそくさと家に入っていく。忌まわしいものを見たかのような反応をする母を見送り、私と|雪《ユキ》は顔を見合わせ、にんまりと嗤った。