魂すべてを捧げてもきみに会いたい

 草木が眠り、生き物が眠り、夜空の月すら眠る夜。森の奥深くにある魔女の家で、失われた時代の禁じられた呪文を唱えた者がいた。  鏡が光を放ち、世界が反転する。反転した世界には、死んだはずの魔女がいた。  魔女の足元で、黒猫が鳴く。

「また会えたね、セレスティーヌ」

 夜に溶けそうな黒猫を抱き上げ、魔女は困ったように笑った。

「悪い子ね、クロード。九つの魂をすべて使うなんて」 「きみに会うためなら安いものさ」

 猫は魔術を使うため、自らの持つ魂をすべて捧げた。それでも、この魔法は長く続かない。月が沈む頃には反転した世界は元に戻り、魔女の魂も再び眠りにつく。

「後悔なんてないさ、セレスティーヌ」

 猫の言葉に嘘はない。後悔はなかった。寂しさを抱え生きるよりずっとよかった。

「悲しむよりもほら、再会を喜ぼうじゃないか!」

 猫が尻尾を一振りすれば、食器や呪い道具たちが楽団もかくやと音楽を奏で出す。魔女の腕から飛び降りて、猫は魔女を踊りに誘う。おいでおいでと招くように、家中の書物も宙を舞う。魔女は「しょうがないわね」と微笑んで、ひと時の再会を喜ぶべく、猫と書物の踊りに加わった。