120分で1本書く企画に参加したよ-本文編01
2023-10-14本文01
いつの時代だか、プルメリアという娘がおりました。プルメリアが住んでいたのは、そこそこ大きな国の、そこそこ小さな領地の、それなりに広い森のそば。
プルメリアは領主の一人娘でした。森のそばにある大きな屋敷が、父である領主の住まいです。
小さな領地ですが、ささやかな諍いすらない平和な土地でした。贅沢さえしなければ、それなりにのんびりと暮らせる場所です。お陰でプルメリアも、貴族の娘と思えぬほど伸びやかに育ちました。
プルメリアは貴族の娘らしく習いごとをしたり、よその貴族とおしゃべりに花を咲かせることが苦手でした。一人でぼんやり、風の音や木々の葉が擦れ合う音に耳を澄ませているのが好きでした。
だからプルメリアは、お屋敷を抜け出しては一人で森へ行きました。森はいつでも静かで、自分の足音ばかり大きく響きます。遠く、微かに小鳥の囀る声が聞こえるくらいです。
プルメリアのお気に入りは、森の奥深くにある泉です。水は冷たくきれいで、周りには花がたくさん咲いています。プルメリアはここまでたどり着けたら、服が汚れるのも構わず泉に足を浸します。
たどり着けたら、というのは、プルメリアの父がすぐさまプルメリア捜索隊を森へ寄越すからです。この森には、一本角の魔獣が住んでいました。人々はそれを|一角獣《ユニコーン》と呼びます。
屈強な男たちに連れ戻され、プルメリアは父へ引き渡されます。父はいつも、困った顔でプルメリアを諭します。
「いいかい、プルメリア」
.付箋文
ユニコーンという魔獣がいるから一人で入らないよう言われてるけど、家庭教師が厳しくて、嫌になると森に逃げ込んでぼーっとする
十の年に母が病死、十三の年で父が再婚
継母は血の繋がらないプルメリアを疎ましく思っている
自分が妊娠したのをきっかけに、プルメリアを亡き者にしようと計画
プルメリアが脱走するのを助け、飲み物を持たせる
飲み物には毒が盛られていた
泉のそばで倒れるプルメリア
死ぬんだ、と覚悟した瞬間、耳が痛いほど明るい声が響く
「おめでとうございます!」
「あなたは選ばれました!」
現れたのは妖精
蝶々の羽ではなく蠅の羽
あなたはユニコーンに見初められました、と言祝ぐ妖精
それどころじゃないのにぺらぺらおしゃべり
「この森の主であるユニコーンは、あなたを妻にと望んでいます」
「けれど望まない結婚は本意ではないとのこと」
「どうされますか?」
「ちなみに承諾された場合、その毒を浄化すると仰られてます!」
一も二もなく承諾するプルメリア
目の前にふわりと現れるユニコーン
青いたてがみに金の角
「二言はないね、プルメリア」
うなずくと、角を泉に浸す
水が金色に輝く
「これをお飲み」
妖精たちの助けで、金に輝く水を飲む
解毒される
ユニコーンはぽきりと角を折る
「持っておゆき、未来の花嫁。時が来れば迎えにゆくから、それまではこれで、継母の謀りを凌いでおくれ」
ユニコーンの角は、毒を察知し浄化するという
事実、そうだった
食事の際、プルメリアはこっそり飲み物や食事を角で突いてみた
一瞬だけ輝き、無毒化する
その後角は黒ずみ、粉となって消える
「使うとすぐ消えちゃうのね。じゃあどうやって、これから毒を防げばいいの?」
悩みながら部屋に戻る
ころりと転がる角を見つける
「あら」
ベッドの上に、二本の銀の角
翌日、朝食を終えて部屋へ戻れば三本の角
使わずにいても、ベッドに置かれる角は増える
「減らないわねぇ」
困ったわ、と思いながらクローゼット/チェストへぐいぐい押し込んで収納するプルメリア
それにしても、と一息つく
「一角獣なのにどうして何本も角があるのかしら」
「それはですねえ!」
「わあ、びっくり」
角を運んできた妖精
ユニコーンはよその森で角狩りをしていた
「あなた様のために、たくさん角を用意されるようです!」
「支度金の代わりも兼ねております。不要な分はどうぞ、売って金銀宝石その他財産に変えてくださいませ」
「そんなの、もったいないわ。角を折られた余所の一角獣が気の毒だわ」
「お優しい花嫁様!」
「でも折れたものは仕方ありません」
「明日からは控えるよう進言してみましょう!」
「でも、これまでの分は今まで通り使ってくださいませ」
父に何本か分け与える
喜ぶ父
歯軋り継母
このままじゃいかん、と武力行使に出る
夜、寝室に忍び込む暗殺者
凶刃が振り下ろされる
どかん、と壁が壊される
刃ごと弾き飛ばされる暗殺者
飛び込んできたのは、金色の角を持つユニコーン
「我が花嫁に何をする」
物音に起き、驚くプルメリア
「遅くなってすまないね。近場の角を狩りすぎたんだ」
暗殺者を突き殺そうとするユニコーンを止める
「待って、殺さないで。この人まだ、奥さんと赤ちゃんを育ててるの」
「優しいね、我が花嫁。それじゃあこいつを見逃す代わりに、きみをさらってしまおうか」
傅き求婚するユニコーン
「私と森へ来てくれるかい?」
「ぼーっとしててもいい? 習い事なさいって、叱らない?」
「もちろん。一日中、小鳥や小動物、私と戯れて過ごそう」
「わあい」
ユニコーンの背に乗り屋敷を出て行く
物音にどやどややってくる家族
ユニコーンたちはもう遠く
顛末を聞いた父が捜索隊を森へやっても、誰も森へ入れない
森の外から父が懇願しても、心を入れ替えた継母が泣いて謝っても、ユニコーンの住まう森へ入れる人間は誰もいない
やがて森に近づく人間はいなくなり、その森は〝入らずの森〟と呼ばれるようになった
ユニコーンの花嫁がどんな暮らしをしているかは誰も知らないけれど、時折聞こえる楽しげな笑い声が、円満な夫婦生活を証明しているだろう